藍 画 廊



伊藤幸枝展
「汲む」
ITO Yukie


伊藤幸枝展の展示風景です。



各壁面の展示をご覧下さい。



画廊入口から見て、左側の壁面です。
作品タイトルは展示作品すべてが無題ですが、作品の識別の為に色名が付けられています。
色名をタイトル代わりにして、各作品をご紹介いたします。
左から「空、赤茶」、「緑、赤茶」、「赤紫、空、黄緑」です。
サイズはすべて56.0(H)×76.0(W)cm (F20)です。



正面の壁面です。
左から「青、赤紫」、「黄緑、青」です。
サイズは共に56.0(H)×76.0(W)cm (F20)です。



右の壁面です。
左から「白、空、茶」、「橙、空、紫」、「青、緑、紫」、「紺、黄緑」です。
サイズはすべて45.5×53.0 (F10)です。



入口横の壁面です。
左から「赤、緑」、「紫、灰」、「青、黄緑、白」です。
サイズはすべて31.8×40.9 (F6)です。

以上の12点が展示室の展示で、その他小展示室に2点、事務室壁面に2点の展示があります。
作品は紙とアクリルガッシュを使用しています。



右壁面の「青、緑、紫」です。
色の名前通り、青と緑と紫が混じり合った、深い色彩の美しい作品です。
伊藤さんの作品は紙を使用していますが、水を多く含んだ絵の具の使用と水洗いの為に、紙が波打っています。
上の画像でお分かりいただけるでしょうか。
(展示は紙が壁面から少し浮いた感じになっています。)

伊藤さんの制作過程は独特です。
絵を描くというより、絵の具や紙と戯れるといった方が良いかもしれません。
簡単に説明してみましょう。
最初は紙に水を流します。
それからアクリルガッシュを置いていきます。
筆で描くのではなく、水を含んだ絵の具そのものを流し込んでいきます。
それから、紙の両端を手で持って、左右上下に傾けます。
すると、紙の繊維には密と粗がありますから、絵の具の吸収が紙の部分によって異なります。
つまり、画面は斑(まだら)な状態になります。

その斑な画面に、さらに絵具をかけます。
その上で、手で擦ったり、画面を水で洗い流すことも行います。
水で洗い流しても、残る色は残りますが、絵具を流すと、絵具と絵具がくっついて逆に色が落ちる場合もあります。
それを繰り返して、ある時点で制作は終りになります。
結果として、絵具のレイヤー(層)が重なった重層的な絵画が完成します。

各壁面からピックアップした作品をご覧下さい。







伊藤さんの絵の制作方法は特殊です。
しかし、(筆などで)描くという行為だけが絵画ではなく、このような方法も充分に絵画です。
過去にもアクションペインティングやドリッピングといった方法がありました。
要は絵画で何を表現したいのか、その表現にはどのような方法が適しているのか、といったことだけです。

伊藤さんの「汲む」シリーズも今回で4回目です。
この「汲む」というタイトルの意味は何なのでしょうか。
伊藤さんに訊ねました。

伊藤さんは必然と偶然を混交して絵を制作します。
まず絵の具を用意しますが、その色は伊藤さんが決めます。
これは必然ですね。
そしてその絵の具を紙の上に流す。
できた模様(絵柄)は、偶然です。
しかし、手で絵の具の流れを操作しますから、必然の要素もあります。
絵の具の混ざり具合には、当然、偶然の要素も入り込みます。

それを繰り返し、あるときに手で画面を擦ったり、水で洗ったりします。
そのタイミングの決め方は必然ですが、制作の流れで偶然行われることもあります。
このように、自分の意志と偶然の作用とのセッションが、伊藤さんの絵画です。

普通セッションとは複数の人間で行われますが、伊藤さんの場合は一人です。
一人の、いわばジャムセッションです。
その場合、交わされるのは、伊藤さんの意識と無意識です。
何かを決定するとき、意識を排除して無意識を引き出す場面が、この必然と偶然の絵画にはあるのです。
「汲む」とは、その無意識を引き出す、汲み出すことを意味しています。

ダダやシュールレアリズムが人間の無意識を重要視したように、伊藤さんは伊藤さんのやり方で、無意識を引き出します。
いや、汲み出します。
それが、この重層的で、鮮やかで、深層に響く絵画を生んでいます。
色と形が、意識と無意識の織物のように複雑に入り組んで、絵が生成されています。
その絵は、伊藤さんも知り得なかった、全人的な伊藤さんを表しているのかもしれません。

人間とは何か。
その深遠な問いに、絵画は今も挑み続けています。
人それぞれの方法と感性によって。

ご高覧よろしくお願い致します。

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2010年藍画廊個展


会期

2011年6月6日(月)ー6月11日(土)

11:30amー7:00pm(最終日6:00pm)



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