小品です。
右側の作品には、地に細かなドットが無数描かれています。
他の作品にもこのドットは見られ、伊藤さんのモチーフの一つです。
伊藤さんは大学時代、地理学を専攻していたそうです。
美術大学の出身ではありません。
それ故の面白さが作品にはあります。
学生時代、航空写真や地層の調査で地理を学んだ経験が、無意識に作品に反映されています。
伊藤さんは、上空20,000mに存在する微生物に興味を持った、と前回の個展のコメントで語っています。
そんな上空にも微生物は存在するし、反対に地下の奥深くにも微生物は存在します。
微生物はその空間と共生し、時間と共に姿を少しづつ変えていきます。
人間も又、同じです。
この気持ち良さ気に漂うリボンは、何でしょうか。
それは、伊藤さんが心を解き放った状態かももしれません。
あるいは、生物と環境の共生する様かもしれません。
その両方かも、しれません。
画面を覆い尽くす無数のドットは、原子や電子といった最小単位の存在を想像させます。
その存在の運動は、生物と環境の境目を曖昧にします。
複雑に絡みあって、世界を構成しています。
それは「気持ち良い」という次元ではないのですが、多分伊藤さんにとっては「気持ち良い」でしょう。
わたしも、「気持ち良い」観賞です。
地理や風土を突き詰めていくと、世界の謎に直面します。
何故世界はこのように複雑に連鎖しているのか。
そういう謎ですね。
美術も又同じで、その謎に分け入るのが制作です。
伊藤さんのアプローチは、そこで一つになったのではないでしょうか。