藍 画 廊


市川治之展
《のぼるひと》
ICHIKAWA Haruyuki

市川治之展の展示風景です。



各壁面ごとの展示をご覧下さい。



画廊入口から見て、左側の壁面です。



正面の壁面です。



右側の壁面です。



入口横の壁面です。

以上の12点が展示室の展示で、その他小展示室に6点の展示があります。
作品の詳細をご覧下さい。



左壁面、左端と中央の作品です。
左はタイトル「のぼるくだる」(木 、アクリル)でサイズ130✕120✕215mmです。
右は「ピアノ」(木、鉄、アクリル)で245✕130✕270mmです。



左壁面、右端と正面壁面左端の作品です。
左は「のぼるひと-5」(木、アクリル)で30✕300✕370mmです。
右は「ヒストリィ」(木、鉄、アクリル)で315✕210✕485mmです。



正面壁面、中央の作品です。
「のぼるひと-1」(木、鉄)で800✕2290✕2260mmです。



右壁面、左端と左から2番目の作品です。
左は「砂の家-4」(木、鉄)で92✕75✕210mmです。
右は「砂の家-3」(木、アクリル)で35✕92✕165mmです。



右壁面、左から3番目と右端の作品です。
左は「砂の家-2」(木、アクリル)で90✕210✕210mmです。
右は「砂の家-1」(木、アクリル)で90✕230✕200mmです。



入口横壁面、左端、中央、右端です。
左は「のぼるひと-4」(木、アクリル)で120✕120✕450mmです。
中央は「のぼるひと-3」(木、アクリル)で100✕100✕210mmです。
右は「のぼるひと-2」(木、アクリル)で120✕120✕230mmです。

〈作家コメント〉

「のぼるひと」
路地を曲がると粗末ではあるががっしりとした階段がある
それは建物の壁面に沿って上へと続き
壁面が途切れたところで曲がり、向こう側へと続いている
上に何があるのだろう
登ってみたい、見てみたいと云う欲望は限りなく続く

会場には本展に寄せて市川さんが記した小文も展示されています。
全文を下に転載したします。

「白い壁」

白い巨大な壁がある。その壁の途中にある僅かな段差のような棚部分に数人の男たちが背に荷物を背負い、又ある者は手にバッグを持ち、何も持たずにたたずむ者、腰掛けている者 数人、いや数人ではなく、横に目を移せば、その棚には5・6人づつ固まって、何組もの人たちが数百組はいるかと思えるようにずっと横一列に並んで遙か彼方まで続いている。その白い壁は高く何キロも上方にまで達しているらしく、てっぺんは見えない。下はおよそ1000メートルもあろうか、地上でうごめくものを確認できるが、それが人らしい。蟻よりも小さく見える。遠くは白みががかった地平線が見渡せる。淡いブルーの白っぽく今にも空の色と一体になり溶け込んで行ってしまいそうに淡い地平線だ。目線を落とすと徐々に緑へと変化していき、眼下に広がる広大な森だと分かる。森は所々まだらになっていて、樹木のない部分は乾いた荒れ地らしい。その荒れ地のそれぞれの中央部分には建物らしきものが密集している。建物と言っても粗末なバラックのようだ。棚の上の人たちは時々壁を背にして右の方へ移動する。15分か20分おきに前のグループが進んだ分だけゆっくりと移動する。その棚は少しだけ傾斜していて上っているようだ。その人たちはゆっくりとだが少しずつ登っている。僕はその中の一人だ。いつからその列に加わったか覚えてていない。気がつくとそこに居た。このスピードで登ってきたのであれば、数日、あるいは数週間かかっているのだろうか。皆多くは黙って遠くを見たり下を眺めたりしている。隣の者と話をしている者もいる。
僕は思いきって前を歩く中年の男に話しかけてみた。
「上には何があるんでしょう」前の中年男は壁に手をつきゆっくり振り返ると

『それは分からない行ってみないと・・ 君はいつからここにいる?』

「気がつくとここにいました。ついさっきのような気がします」

『ついさっきか。じゃぁ無理ないな私はもう3ヶ月ぐらいになるかな・・・私の時間の感覚が正しければだが。ここは昼も夜もない 、いつもおなじだ。眠くもならなければ腹も空かないただただ今が在るのみだ』そのときその男越しに誰かが落ちた。あっと驚いて声を上げると男は、驚くでもなく、
『また行ったか』と何の感情も込めずに言った『時々ああやって耐えきれずに急ぐ奴もいる・・落ちればまた最初からやり直しだろうに』
『えっ!この高さから落ちても死なないのですか?』



『ああ死なない。以前試してみた。あまりにもやる事がなく落ちると云う感覚ってどうなんだろうと云う好奇心で落ちてみた。落ちるんだよ。確かに落ちるのだが、地面に激突するまではっきりと覚えている。激しい衝撃の後、何も見えなくなった。全てが消える。気を失ったんだろう。いや死んだのかも知れん。しかし気がつくと、また、この白い壁に取り付いているのさ。以前と同じようにな、高さはだいぶ低いところだったが。そしてまた登り始める。落ちることを生々しく体験できる。君もやってみるといい。ここは違う世界だ。“肉体感覚のある意識の世界”とでも云うところかな。平面の広がりと、上下、つまり天と地がある。自分を個として認識できる。今までいた世界と同じようにな。そして私らは天に向かって登っている』
『私はこの壁を思考の壁と呼んでいる。ここでできる事は考えることぐらいしか無いからな。誰かに考えろと言われているような気がしないでもない。』
『僕は登りたい、いや上には何があるのだろうという好奇心かと』
『皆んなそうだ!今の状況から変わるために登っている。私らはそうできているんだ。DNAにそう組み込まれている。共通した意識だ。階段があれば登るだろう!今日よりは明日、明日よりは明後日、良くなってたら嬉しいと思うのが普通だ。皆 無意識に上を目指す。太古の昔から人類はそうして来た。そうやって今の時代を作ってきたんだ。』
『考えるだけですか、そうですね考える事が出来るのは人間だけですからね。でも僕みたいに考える事が苦手な者も居ますけど』
『君なりに考えればよろしい、と誰かが言っている。退屈ならば跳んで見るのもいい。鳥のように羽ばたいてはどうかな』
『退屈だったら跳んじゃおうかなって思いますよ。でもあなたとこうやって話が出来るのも楽しいです。退屈ではないですよ今は』
『退屈は忙しい時間があるから生まれる概念だ。この世界のように何もない無いと退屈という概念も存在しないはずなのだが』
『そういえば僕はここに居て何週間か退屈だとは思って居なかった。何をして居たのでしょう』
『君は昔のことを思い出せるかね?』
『いや、ハッキリとは... 何だかボーっとしていて....... 』
『ここは特別な世界なんだよ、過去も未来もない、今だけの世界、私にとっては理想の世界だ。考える以外何もしなくていい。こんな世界、他にあるかい』
『無いですよね、でも 上はどうなっているのでしょう?何があるのだろう。』
『何も無い、なにも......無い、 無いと云うものが在る。ダークマターだ。』
『暗黒物質、ダークマターですか。』
『そう、この坂を登っていくとだんだん暗くなっていく、どんどん どんどん暗くなり、やがててっぺんは暗闇のみ。上も下も天も地も無い ただの暗闇 ... ... ...と想像する、行ったことが無いからおそらくそう云う闇しかない世界だろうと想像しているのだ。』
『え~っ!そうなんだ、僕と正反対ですね、僕は明るくて気持ちの良い原野が広がった世界があるような気がします』
そう言って二人はまた、前の人たちが進んだ分だけのぼっていった。



今回の市川さんの作品、階段が主人公です。
箱状の作品も3点ありますが、これも階段がモチーフになっています。
展示された立体作品を一覧して、壁面に貼付してある小文を読むと、その共通性に興味が行きます。
物語、それが市川さんの表現の核の一つになっているようです。

思い起こしてみれば、最初に見た市川さんの作品は、金属の棒がゆるい傾斜を回転していくものでした。
その回転はとてもゆっくりしたもので、大きな古い時計の振り子を思わせるものでした。
物語とは時間の経過を取り込んだ表現ですが、この作品も時間が内包された作品でした。

さて、階段です。
階段ものぼる、くだる、どちらでも時間がかかります。
市川さんの階段はのぼった先もくだった先も何があるのか分かりません。
分かっているのは、いまのぼっている途中であることだけ。
(でも気がついたら、くだっている途中だったのかもしれません。)

階段はメビウスの環、もしくはエッシャーの階段のようになっているのかもしれません。
どこから出発したのか、どこへ行くのか。
分かっているのは、その途中であることだけ。

時間が過去から未来に向かって直線的に伸びていると考えるのは、近代的思考です。
市川さんの作品は、そのモダンで洗練された佇まいから、一見すると近代の思考のように思われます。
しかし、じっくり見ていると、物語っている寓意は円環状(リング)のようにも思えます。
深読みすれば、輪廻転生を表しているとも取れます。
(余談ですが、市川さんは仕事で指輪=リングも作っています。)

わたしも、いま階段をのぼっています。
いつからのぼっているのか、憶えていません。
のぼった先に何があるのは、想像もつきません。
もし砂の家だとしたら、入った瞬間崩れ落ちて、気が付いたらまたのぼっているのかもしれません。
それでもかまいません。
いまはのぼっていること、そして考えることをただ楽しみたいと思っているからです。
例えば、市川さんが楽しそうに階段の作品を作っているように・・・・。

ご高覧よろしくお願い致します。

プライスリスト

2001年藍画廊個展
2004年藍画廊個展
2007年市川治之+橋本伸也展
2009年藍画廊個展
2011年藍画廊個展
2012年iGallery DC個展
2015年藍画廊個展

会期

2017年4月10日(月)ー15日(土)
11:30amー7:00pm(最終日6:00pm)


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