藍 画 廊



市川治之展
seeker 「探索する人」あるいは広目天のように
ICHIKAWA Haruyuki


市川治之展の展示風景です。



画廊入口から見た展示です。
市川治之展は床置きの立体と壁面の平面で構成されています。
先に、画廊のほぼ中央に床置きされた作品をご紹介します。
タイトル「ガイネンの海、カンネンの鎧」(木・鉛)で、サイズ100(H)×210(W)×50(D)cmです。



画廊入口から見て左側の壁面です。
左から、「探索する人・目-1」で90×60、探索する人・目-2で90×60です。
平面作品はすべて木・鉛筆・ラッカーを使用しています。



正面の壁面です。
「探索する人・目-3」で90×60です。



右側の壁面です。
左から「探索する人・目-4」で90×60、「探索する人・目-5」で90×60です。



入口横の壁面です。
「探索する人・目-6」で、90×60です。

以上の7点が展示室の展示で、その他小展示室に3点の小品が展示されています。



左壁面の「探索する人・目」シリーズ2点です。
タイトル通り、目が精細に鉛筆で描かれています。
素材はシナ合板で、ラッカーで斑(まだら)な地を作っています。
左のモデルは市川さん本人、右はダヴィンチのモナリザです。



正面壁面の「探索する人・目-3」です。
この作品のモデルは広目天で、バックのポーズも広目天をモデルにしています。
さて、サブタイトルにも表されている広目天とは何でしょうか。

市川さんに訊ねてみました。
広目天とは仏教における四天王の一体で西方を守る守護神だそうです。
市川さんは、その昔、奈良の東大寺の広目天の目に魅入られ、目の持つ神秘的な力、役割に興味を持ちました。
というより、その目の力に圧倒されたそうです。
それが時を経て、今回のテーマになりました。



右壁面の「探索する人・目-4」と「探索する人・目-5」です。
モデルは、あえて秘密にしましょう。



床置きされた「ガイネンの海、カンネンの鎧」です。
この作品の人の部分は木彫で、頭部の上部を除いて鉛で被っています。
海(長方形の板)の部分も鉛です。



白くペイントされた頭部と鉛で被われたその他の部分。
何か、苦しそうな表情ですね。



横から見た図です。
この角度から見ると、スイミングキャップを着けた泳者に見えないこともありませんが、鉛の重さが異様です。
その重力から抜け出すのに必死な様子が、平面同様、精緻に描写されています。




市川さんは、面白い人です。
いや、どんどん面白くなっていく人です。
現代美術の作家であり、ジュエリーデザイナーであり、ある時は短編小説の作家でもある。
そして美術作家としての作品も一筋縄ではいきません。
立体が本業ですが、モビールのような動く作品も作りれば、今回のように平面も制作してしまう。
金属や石が主な人が、前回から木彫も手がけて作品化する。
しかし器用な人という印象は受けません。
却って(制作態度においては)、不器用な人に思えます。
そんな市川さんの顔が全面に出たのが、今回の個展です。
(実際に市川さんの目が描かれていますが、シャレではありません。念のため。)

seekerとは「探索するヒト」、です。
ここで、人がヒトになっていることに留意する必要があります。
ヒトは類としての、とても広い意味での人間を指していると思われるからです。

ヒトは探索する。
なぜ探索するか。
それは生きるためであり、生きることの意味を探るためです。
前者は生物、動物としての前提条件であり、後者はヒトをヒトたらしめている行為です。

目は世界を視覚的に認識する感覚器官です。
難しく言うとそうなりますが、要は物を見る働きをする器官のことです。
しかしそれは目の働きの大分であっても全部ではありません。
目にはコミュニケーションとしての能力があります。
それも単純なアイコンタクトではなく、深いコミュニケーション能力です。
それを市川さんは、広目天の目に発見しました。

その発見は、市川さんの心の奥底に仕舞われていました。
長い間。
それが今回、作品となって顕わになりました。
「ガイネンの海、カンネンの鎧」。
今ヒトは、その重力に囚われて、身動き出来ない状態にあるのかもしれません。
それを突き破るのは、やはりヒトの能力以外ありません。

目、です。
広目天のような、目です。
ガイネンの海を泳ぎ切り、カンネンの鎧を脱ぐのは、目の潜在能力です。
モノの本質を見切り、他者と広く深くコミュニケーションする力。
市川さんは、それこそがヒトの未来と思い描いています。

広目天の目。
一度見てみたいものです。
目というものの概念を変え、観念を突き破ったという、広目天の目。
そんな思いに駆られる、
市川さんの(いつもように)型破りで正統的な作品です。

ご高覧よろしくお願い致します。

市川治之2001年藍画廊個展
市川治之2004年藍画廊個展
2007年市川治之+橋本伸也展
2009年藍画廊個展


会期

2011年6月20日(月)ー6月25日(土)

11:30amー7:00pm(最終日6:00pm)



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