藍 画 廊



新世代への視点2009
菊池絵子展
KIKUCHI Nuiko


東京現代美術画廊会議(銀座、京橋地区の10の画廊で発足し、現在は12の画廊)は、1993年より「-画廊からの発言- 新世代への視点」を主催してまいりました。
10回目の開催となる2009年展の藍画廊の展示は、菊池絵子さんの平面作品です。

まずは菊池さんの作品を一点ご覧いただきます。



本展の案内状の画像にも使用された作品で、作品タイトル「ケーキ、エジプト、ハンカチ」です。
紙に鉛筆で描かれていますが、展示作品はすべてこのような形式(色鉛筆が使用されている作品も2点あり)で、壁にピンで留められています。
素っ気無い展示ですが、それが作品の内実とシンクロしていて、却って潔さとスケールを感じます。

ピラミッドとケーキが、実際の体積を無視して、同じような大きさで並べられています。
ではタイトルにあるハンカチとは?
右側の細い線にご注目下さい。
ハンカチのステッチですね。
そう、この紙全体がハンカチなのです。
それでいて、ピラミッドのある砂漠も、ケーキの置かれている白い皿も、存在しています。
これが、これからご覧いただく絵子(ぬいこ)ワールドです。



画廊入口から見て、左と正面の壁面です。
左から、「葉書、広場、森 」(紙・鉛筆)で182(H)×257(W) mm、「地面、空、壁」(紙・鉛筆・色鉛筆)で257×182、「北の海、広場(夜)、地図」(紙・鉛筆)で182×257、「南極、五月、壁」(紙・鉛筆・色鉛筆)で257×182、「広場(冬)、空、クヌギ」(紙・鉛筆)で210×297です。



正面の続きと右側の壁面です。
左から、「広場(冬)、砂浜、空」(紙・鉛筆)で297×210、「ケーキ、エジプト、ハンカチ」(紙・鉛筆)で210×297、「ケーキ、ヒマラヤ山中、Scottie」(紙・鉛筆)で297×210、「宇宙、ごはん、紙」(紙・鉛筆)で257×364、「天井、海、お向かい」(紙・鉛筆)で364×257、「首、空、森の中 」(紙・鉛筆)で257×364、「玄関、ディスコ、薮の中」(紙・鉛筆)で364×257です。



入口横の壁面です。
左から「湖、空(夜)、空(昼」(紙・鉛筆)で148×210、「水族館、空、机の上」(紙・鉛筆)で210×148、「海、壁、空(夜)」(紙・鉛筆)で148×210、「左手、壁、空」(紙・鉛筆)で210×148です。

以上の16点で菊池絵子点は構成されています。



左壁面の 「葉書、広場、森 」です。
鉛筆で丁寧に描かれた葉書の切手(と消印)と街灯と一角獣(ユニコーン)です。
いずれもタイトルの葉書と広場と森に対応しています。



左壁面の「南極、五月、壁」です。
難局じゃなくて南極はペンギン、五月は端午の節句で鯉のぼりで、壁はプラスのネジ頭。
落語の三題話のようですが、実は全然そうではありません。
見て欲しいのは、鯉のぼりの青空、ペンギンの歩く氷河、ネジが埋め込まれたベージュの壁です。



正面壁面の「広場(冬)、空、クヌギ」です。
雪だるまと紙飛行機とクワガタでしょうか。
やはり冬の雪の広場と、大空の飛行と、クヌギの昆虫に対応してますね。
これは童話かいえば、そうでもあって、そうでもありません。
視点(アングル)と、描かれた微妙な大きさの差異にご注目。



正面壁面の「ケーキ、ヒマラヤ山中、Scottie」です。
これは難しい。
ヒマラヤ山中の雪男とケーキのキャンドルは分りますが、真中の物体が不明。
でタイトルを見るとScottie。
そうかそうか、ティッシュの取り出し口なんですね。
納得です。
絵子(ぬいこ)ワールドは時々難解で、頭をヒネリますが、分ってしまえば成程です。
それでこの作品のポイントは、余白です。



右壁面の「天井、海、お向かい」です。
天井からつり下がる照明のスイッチ(ヒモ)と、海のギャングシャチと、団地のお向かいのような窓。
シャチがスイッチに飛びついているようで、それだけだと寂しいので、お向かいの窓があるのか?
正解は、作者にも解らないでしょう。



右壁面の「玄関、ディスコ、薮の中」です。
靴が三足とサンダル一足、ディスコのミラーボールの輝きと、薮の中の槌の子(つちのこ)です。
槌の子は胴の太い、蛇の一種という想像上の動物です。



入口横壁面の「湖、空(夜)、空(昼」です。
小舟の釣り人、お化け、ヒコーキ。
何の結びつきあるかといえば、何もありません。
あえていえば、絵子(ぬいこ)ワールドです。



最後は入口横壁面の「左手、壁、空」です。
渡り鳥は直ぐ分りますが、壁のスイッチは少し難しい。
しかしそれ以上に超難解なのは上部のドローイング。
これは、なんでしょうか。
柳の枝?
常識的すぎますね。
ヒントは左手。
そう、自分の左手の手相の筋を見ながら、鉛筆で右手で描いたドローです。



絵子(ぬいこ)ワールドを楽しんだ後は、解題です。
絵子(ぬいこ)ワールドはシンプルな割に複雑な要素があって、解題もいろいろあります。
今回は余白について、少し感想を書いてみます。

例として左壁面の「南極、五月、壁」を見てみましょう。
五月の鯉のぼりのバック(背景)は青空です。
五月晴れの、青空ですね。
南極のペンギンの行進は氷河か雪の上です。
プラスのネジ頭が埋め込まれているのは壁です。
何かを取り付けるために、壁に打ち込まれたネジだと思います。

その、青空も氷河も壁も、実際は描かれていません。
そこにあるのは、紙そのもの、紙の表面です。
それをわたしたちは勝手に頭の中で想像して、絵を成立たせています。
その結びつきの唐突さに頭をヒネリながらも、背景のある絵として見ています。

これはわたしの想像ですが、絵子さんは紙そのものに、青空や氷河や壁を見ています。
つまりこれは紙であって、同時に、青空や氷河や壁でもあるのです。
難しく言えば、モバイル(移動可能)のメディアとしての紙が、青空と氷河と壁を同一平面に共存させているのです。
そしてそれは、ある意味で、紙という不思議なモノの正体なのです。
そういう難しいことを、易々とやってのけているのです。
これは実は、大変な力技(ちからわざ)だと思います。
あの非力な絵子さんが、パワーを全開にして描いているに違いありません。

それで、それではこの作品はコンセプチュアルな観念的な作品かといえば、そうでもあって、そうでもありません。
なぜなら、そこには遊びがあるからです。
本人が遊んでいるし、わたしたちも遊ばせてもらっています。
ナゾナゾのような楽しさがあるのです。

繰り返せば、絵子(ぬいこ)ワールドはシンプルなようで、意外に複雑です。
今回は余白に注目して、その絵の秘密の一端に迫ってみました。
皆さんも違う角度から絵子(ぬいこ)ワールドを解明してみて下さい。

ご高覧よろしくお願い致します。

「新世代の視点2009」公式Webサイト

同時開催 OFFICE IIDA企画「菊池絵子展」/新世代の視点2009「画廊からの発言’09」小品展

2007年藍画廊個展
2008年藍画廊個展


会期

2009年7月27日(月)-8月8日(土)

日曜休廊

11:30am-7:00pm(最終日6:00pm)


会場案内