藍 画 廊



菊池絵子展
「日用」
KIKUTCHI Nuiko


菊池絵子展「日用」の展示風景です。



画廊入口から見て、正面と右側の壁面です。

左から、作品タイトル「ノートの上」で、作品サイズ252(H)×359(W)×20(D)mm、紙と糊を使用、
「ハンカチ、カメ、モモンガ」で、490×490mm、ハンカチと糸、
「道2」で、182×256mm、紙に鉛筆です。



入口横右の壁面です。

左から、「湯呑」で、332×241mm、紙に鉛筆、
「タンス」で、225×232mm、紙に水彩です。



左側の壁面です。

左から、「靴下と靴紐」で、270×382mm、紙に色鉛筆、
「部屋」で、297×210mm、紙に鉛筆、
「ごみ箱」で、147×100mm、紙に鉛筆、
「ハンカチ鳥」で、サイズ可変、ハンカチと洗濯バサミです。
以上の九点が画廊内の展示で、その他道路側ウィンドウに一点の展示があります。

一番上の小さな画像は、道路側ウィンドウの「道1」(紙に鉛筆)の部分です。
スーツでカバンを下げたサラリーマン風の人物。
どうして、こんな姿勢をとっているのでしょうか。
深酒で、千鳥足なのでしょうか。
(答えはページの最後で。)



正面壁面の「ノートの上」です。
広げられたノートの上に、同じノートの紙で作られた小さな舟が一艘。
ただ、それだけです。

これはコンセプチュアルアートでしょうか。
違いますね。
「遊び」です。

ノートを広げると、ノートの罫線は波打って、波に見えます。
それに気が付いた菊池さんは、同じノートの紙で小さな舟を作り、浮かべました。
(わたしの想像ですが、さほど間違っていないと思います。)

「遊び」とは、既成観念から逃れて、自由に想像力を働かせることです。
何事にも意味や価値を求めるのが現実社会ですが、「遊び」には無用です。
美術も基本は「遊び」で、どれだけ遊べるかが勝負です。

ノートの海は、広々としています。
波は静かですが、舟は小さく揺れています。
舟はどこに進むのでしょうか。
それとも、ここで漂う為に浮かべられたのでしょうか。



ノートが海だとしたら、湯呑は湖です。
入口横右壁面の「湯呑」ですが、中に浮かんでいるのはネッシーのような恐竜。
日常的な風景の中の非日常的な光景ですが、あくまでも日常的描写なのが、上手な遊び方です。



今度は恐竜ではなくて、鼠。
マウスです。
コンピューターのマウスの語源が、この作品を見ていると良く分かります。
確かに、マウスですね。

このマウス、靴下と靴紐から作られています。
だから作品タイトルも「靴下と靴紐」(左壁面)です。
写実で確かな描写が、質の高い「遊び」になっています。



次は、何でしょうか。
画廊の隠し扉の上に、チョコンと載っていますね。
そう鳥です、「ハンカチ鳥」(左壁面)です。
下方に伸びた羽のシルエットが美しく、柄も上品です。


右壁面の「道2」です。
サラリーマンは、飲み過ぎで千鳥足ではありませんでした。

狭い道に張りだした樹を避けるために、あのような姿勢をとったのでした。


美術とは、いうまでもなく表現です。
表現は受け止めてくれる人がいないと成立しません。
なおかつ、表現は自立していなければなりません。
独りよがりの遊びは、表現ではなく、自閉行為です。

画廊に展示された作品は、自立しています。
何の支えがなくても、作品は自分で立っていて、わたしに語りかけてきます。
押しつけがましくもなく、それでいて照れる様子もなく、真直ぐ立っています。
技術も、確かです。

遊びにはルールがあって、それが分からないと参加できません。
菊池さんのルールは、分かりやすいですね。
だから参加しやすいし、共有もできます。
日常(日用)を舞台にした遊びですから、容易に同じ視点に立つことができます。

日用とは、毎日の生活で使うことです。
ノートや湯呑や靴下や靴紐やハンカチ(やサラリーマンの身体)を用いることです。
そういったものの機能や用途を剥奪して、そのマテリアル(素材)で、異なった風景を出現させる。
面白い試みですが、一つ間違うと、単なる遊戯に終わってしまいます。
しかし、そうはなっていないのが、流石です。
紙一重で、作品として成立させています。

しかも、これらの作品は紙一重でなければ、面白くありません。
紙一重の間には、高い技術と深い考察と試行錯誤があって、単純に紙一重ではありません。
紙一重を達成するのも、大変なのです。

さて、わたしたちの日用は科学的観察や機能的実利の上に成り立っています。
ノートは紙という物質でできた、記録や学習に使う日用品です。
そのような属性を少しハズしたり、ズラしたりすると、そこに裂け目ができます。
裂け目から逆に日常世界を見ると、異なった光景に映ります。
その転換の自然さと素直さが、菊池さんの作品の妙だと、感じました。

ご高覧よろしくお願いいたします。


会期

2007年2月19日(月)-2月24日(土)

11:30am-7:00pm(最終日6:00pm)


会場案内