藍 画 廊

上野茂都
ー赤竜ー
UENO Shigeto


上野茂都展の展示風景です。










以上の15点で上野茂都展は構成されています。
作品はすべて布、綿を使用しています。
サイズはすべてW240~260cm位です。
作品の画像をご覧下さい。






 





会場には作品についての上野さんのテキストが置かれています。


赤竜                         

 赤竜とはミミズの別名なのだが、なかなかの見立てではないかと思う。
ちなみに石竜とはトカゲであり、土竜とはモグラ、これらの呼び名も雰囲気がある。
通常は蚯蚓と書くが、これでミミズとは読めないから、キューインというのが彼等の本名らしい。
丘を引く虫というのも、なんか大きくて良い。
古典落語などではミミズではなくメメズと呼んでいるから、おそらく語源は「目見えず」なのではないか。
そういう事は検索をかければ出てくるだろうが、それを元に文章を書くのもなんなので、敢えて調べずにおこう。

 この赤竜(せきりょう)先生、漢方薬の方では地竜と呼ぶそうだ。
天に竜の有る如く、地中にも竜の住める也。
「土中有竜」などと書けば「石中有火 不打不発」みたいで何かイイ。
何故漢方薬なのかといえば、解熱剤になるからで、それを扱った「ミミズ医者」という浪曲があった。
貧乏で流行らない町医者が、薬も出せないのでやけになって、庭で掘ったミミズを煎じて患者に飲ませたところ、どんどん病気が治りはじめて、大繁盛をするという物語。
干してから使うのが工夫らしく、そもそもミイラにはそういう効能があるらしい。
ミイラ取りがミイラになる、というのは薬の原料を探しに行く人達の事。
危険を冒して砂漠などに探しにいったのかもしれない。
薬屋の入り口に飾っておけばその店が信用されたと……これは箱崎先生の講義で聴いた話です。

 土を耕して蚯蚓を切る、という諺がある。
あるにはあるが、何を云わんとしているのかよくわからない。
懸命に土を耕していたら蚯蚓様に危害を加えてしまったゴメンナサイという事なのか。そういう事が起きやすいからキヲツケナサイという事なのか。
目的を達するために何かを破損してしまった時「どうやら土を耕して蚯蚓を切ってしまったようですな……ふふふ」とでも使ってみるか。
何にせよ含みのある言い回し。
ただ蚯蚓は身体を切られても簡単にはくたばらないそうで、大した生命力ではあります。

 夕べに道を聞く事を得ずして、朝に大道に出でて死す。
教えんとするも耳もなし。
嗚呼、縁無き衆生は度しがたし。
蚯蚓勢いをつかし、長うなり、短くなって曰く。
昔知勝仏のとき、我問うて曰く「我等何を喰らいて生を保たん」
仏の曰く「土を喰へ」と。
我等、土の尽きんことを恐れて又問ふ。
「もし土尽きたれば何をか喰わん」
仏の曰く「土を尽きたれば大道に出でて死すべし」と。
此の故に、今に至って、夏の土用に大道へ出でて死す。
故に死も私ならず。
生もまた私ならんや。況んや生死の外なるものをや」
翁の曰く「私無きは即ち私。
なんぞ私無しとはいはん。
必ず修行倦む事なかれ」ト。
買卜先生糠俵

さてさて、こんな話ばかりでは、どうしてミミズが彫刻の題材になったのかという説明が全くなされていない。
加えて言えば、それをどうして布と綿で作らねばならないのか、必然性も感じられない。
「それはですね。たまたまそこに布と綿があっただけの話しでね……」そういえば、造形的にも別段凝ったところは何もなく、おそらく他の人でも同じようなものが作れるのではないか。
「その通り、誰にでも作れるが、誰も作らない。そこが肝心なところデゲス」という事にしておこう。
頭の固い人にはつまらないかもしれないが、アネット・メサジェなら面白がってくれるような……気がする。 (上野茂都)


オリジナル絵入りテキスト


赤竜の由来、制作の動機、意図は上記の文を読んでいただくとして、いつもながら不可解で楽しい作品を作る人ですね、上野さんは。
その昔には石鹸で塔やら亀やらを彫っていましたが、つい最近では何と薩摩芋の彫刻を発表しました。
まったくもって食えない彫刻家です。
それでもってどんなに食えないかを著書『個展物語』で明らかにしていますが、これは名著です。
明治以降で美術家が記した本としては五本指に入るものとわたしは思っています。
美術家とは何かで悩んでいる方や、美術家とはどんな存在か興味をお持ちの方は是非読んで下さい。
画廊で販売しています。

さてさて上野さん、石鹸も薩摩芋もやってますが、紙も布もやってます。
本職というか出自は石彫です。
何でそんなにやっているかは『個展物語』を読めば解ります。
少し悲しい物語ではありますが、独特の筆致で笑いも散りばめてありますので、単なる貧乏物語(食えない話)に終わっていないのは流石です。
いろいろやっていて共通するのは、並べることです。
作品を床に並べたり、壁に並べたり。
それが格段に上手い!
昨今ではインスタレーションなどと呼ばれる空間表現ですが、ともすれば野暮になりがちなそれを粋にこなしているのが上野さん。
今回の布の作品も素晴らしいですね!
ストックしてあった端布を俵状にして並べただけですが、その色とりどりの美しさと端正でふくよかな様は見事です。
それが一本だけでなく、並んでいる。
伝統の活かし方が垢抜けています。

赤竜(ミミズ)は人間の百倍も昔から存在している生物です。
人間並の消化器官を持っていて、土中のバクテリアなどの微生物を食して排泄しています。
それが土の生態系の一役を担っていて、赤竜の居る土は養分が高いと見なされています。
目も耳もない赤竜ですが、自然を弄くり回す人間よりもずっと高等な生物です。
そんなミミズの存在を竜と崇めた昔の人は偉かったですね。
それを彫刻にした上野さんもエライ!
ともあれ、15本の並んだ赤竜をご覧下さい。
惚れ惚れするほどの作品に、きっとリヒターも嫉妬すると思います。

ご高覧よろしくお願い致します。

プライスリスト

2005年藍画廊個展
2006年藍画廊個展
2008年藍画廊個展
2011年藍画廊個展
2013年藍画廊個展
2019年藍画廊個展

 

会期
2022年9月26
日(月)ー10月1日(土)
11:30amー7:00pm(最終日6:00pm)

会場案内