藍 画 廊


新世代への視点2008
鈴木敦子展
SUZUKI Atsuko


東京現代美術画廊会議(銀座、京橋地区の10の画廊)は、1993年より「-画廊からの発言- 新世代への視点」を主催してまいりました。
9回目の開催となる2008年展の藍画廊の展示は、鈴木敦子さんの平面作品です。

展覧会の初日、10の画廊を駆け足で拝見させていただきました。
「新世代への視点」は規定で40才以下の作家の選抜になっています。
まったくの新人ではなく、何回か個展を重ねた、いわば旬の作家の展覧会です。
各画廊とも画廊の個性が表れた選出、展示で、とても見応えがありました。
比較的狭い地域での共同展ですので、一巡するのにさほど時間もかかりません。
会場の一つであるギャラリーなつかでは、過去の出展作家を中心とした小品展も同時に開催されています。
この機会に現代美術の現場をご覧いただければと存じます。
下記サイトに出品作家の紹介及び画廊地図(PDF)が掲載されています。

「画廊からの発言 新世代への視点2008」公式サイト
新世代への視点2008関連企画 小品展



鈴木敦子展の示風景をご覧いただきます。



画廊入口から見て、正面と右側の壁面です。
左から、作品タイトル「空」(麻布・糸・水彩)で、作品サイズ91.2(H)×117(W)、
「葉」(麻布・糸・ジェッソ・油彩・墨)で、33.5×33.5、
「さざなみ」(パネル・キャンバス・白亜地・油彩)で、27.2×22.5です。



入口横右の壁面です。
「白雨」(レーヨン布・綿布・アクリルガッシュ・糸・水彩・墨)で、41 ×31.8です。



左側の壁面です。
左から、「揺れる」(綿布・墨)で、16.3×27.5、
「降る」(綿布・色鉛筆)で、16×23、
「波」(綿布・糸・ジェッソ・油彩・墨)で、65× 93.2、
「満月」(綿布・レーヨン布・油彩・墨)で、16.3×23です。

以上の八点が画廊内の展示で、その他道路側ウィンドウに一点、芳名帳スペースに三点の展示があります。
作品サイズの単位はcmで、制作年度は2007-2008年です。



左壁面の「降る」です。
小さな木枠にガーゼのように薄い綿布が張ってあります。
色鉛筆で描かれているのは、雨。
夏の雨です。



同じく左壁面の「満月」です。
夕方一雨降って、涼しくなった夜半の空には月。
それも、満月です。
ただそれだけのことですが、世界と(絵を見ている)わたしは一体になったような気分です。



左壁面中央の 「波」です。
「降る」と同じく、薄い綿布が張られていて、木枠が透けて見えます。
障子のような効果を上げていますが、それよりも透明度が高く、繊細です。
画面の任意の部分のクローズアップです。



波の様子が、お分かりになるでしょうか。
細かな水の流れが、波を作っています。
綿布・糸・ジェッソ・油彩・墨で制作されています。
鈴木さんの作品の特質に、糸の使用があります。
糸を縫う/刺繍です。
この作品も刺繍が施されていて、独特の質感を画面に与えています。



正面壁面の「空」です。
薄い麻布に水彩と糸で描かれた、青空と雲ですね。
綿布と麻布の違い、描画法の違いなどで、上で紹介した半透明の二作品とは趣(おもむき)が異なります。

う〜ん、この作品の空間、色調はとっても良いですね!
このような空の描き方があったとは・・・・。
もう、感心しきりです。
中央部分に刺繍がありますが、これも効いてます。
(この刺繍は大変苦労なさったそうです。)



右壁面の「葉」です。
前回の鈴木さんの個展は、季節に合わせて新緑の春をテーマにしていました。
今回もやはり展覧会期間の夏を意識して制作されたそうです。
ということで夏の葉ですが、暑さの中に涼を感じます。
それはこの作品に限らず、どの作品にも共通します。



同じく右壁面の「さざなみ」です。
小さな波が緻密に描かれています。
左壁面の「波」の描写と比較してみると、面白いかもしれません。



入口横右壁面の「白雨」です。
白雨とは、明るい空から降る雨、にわか雨のことです。
ドロー(描画)と刺繍の混ざり具合が見事で、白雨の時と空間を美しく描写しています。


結局画廊内の展示を全部ご紹介しましたが、まだ物足りません。
(ページ最上の小さな画像が左壁面の「揺れる」です。)
なぜなら、画廊空間を流れる空気をお伝えできないからです。
展覧会は不思議なもので、展示作品によって画廊の空気が変わっていきます。
壁面から作品だけを切り抜いたWebの画像では、残念ながらその空気を伝えることが出来ません。
(撮影技術が未熟であることを考慮しても)、作品は画廊空間で見るものということを、いつになく痛感した鈴木さんの展示です。

鈴木さんの作品の特質は過去の展示紹介で触れていますので、下記リンクからご覧下さい。
今回は全般的な感想を書かせていただきます。
まず感じたのは、風土です。
鈴木さんの作品の背景には風土があります。
今回の展示でいえば、日本の高温多湿の夏の風土です。

日本の住宅は、冬の寒さよりも夏の蒸し暑さに重きを置いて作られてきました。
いかに暑さを和らげるか、それに工夫を凝らした建築方法といえます。
それと同時に五感で涼しさを感じ取る工夫も生活に為されました。
衣服はもとより、日用品や装飾品にもそれが表れています。

その多くは、明治以降工芸と呼ばれました。
それまでは一緒であったものが、純粋な美術と実用を前提とした工芸とに分けられたからです。
鈴木さんの作品は工芸から影響を少なからず受けています。
その制作方法もそうですが、自然観により近いものを感じます。

具体的にいえば、風景やモノの見方です。
美術でいえば、作家の視点です。
それが、風土を取り込んだ工芸の見方と重なります。
これはとてもユニークなことであり、重要なことです。

いうまでもなく、わたし達は風土の中で生活しています。
しかしわたし達は、風土と「付き合う」ことを止めてしまっています。
日本の蒸し暑さを、力で圧することしか考えていません。
過去の人々の生活の中では、風土と「付き合う」ことで、その中に涼を呼び込んでいました。

風土と「付き合う」とは、自然との共生ではありません。
風土の厳しさや優しさや美しさを、生活のレベルで「付き合う」ことです。
その基になるのは、風土の知覚です。
どのような眼差し(五感)で、風土と接するかです。

鈴木さんの眼差しは、優しくて、深い。
風土は、それに応えている。
作品は連なっていて、その流れは、画廊の空気となっている。
画廊でご覧いただき、それを感じていただけたら、幸いです。

ご高覧よろしくお願い致します。

2006年藍画廊個展
2007年藍画廊個展


会期


2008年7月28日(月)-8月9日(土)

8月3日(日)休廊

11:30am-7:00pm(最終日6:00pm)


会場案内