藍 画 廊



太田武志展
ときー相
OTA Takeshi


太田武志展の展示風景です。



画廊の中空に浮かぶ無数の木の輪(リング)。
画廊の図面で展示範囲をご覧いただくと・・・・。



下のドアが画廊の入口で、図のグレーのゾーンに輪が展示されています。
その数、目見当で200〜250ぐらいでしょうか。



展示されている木の輪はヒノキで、その年輪を一年づつ丁寧にくり貫いて、天井からテグス(釣り糸)で吊るされています。
年輪の内側と外側では輪の大きさが異なりますから、輪の大きさも当然様々です。
とても細いテグスなので、角度によっては輪が空中に浮いているように見えます。

本展によせた太田さんのテキストがありますので、全文転載させていただきます。
(改行は原文と異なります。)

ARTIST STATEMENT

2008年7月14日
太田武志

「とき ― 相」

空間への予断を断つこころみとして

今回の作品は、なぜここ(そこ)はここ(そこ)であり続けられるのか。
空間の自己同一性について考えることから始まった。

私は近年の作品で、時間という要素から空間を捉えようとしてきた。
時間とは果たして移ろうもの(過ぎゆくもの)なのか。空間にとって時間は常に連続しているのか。
いくつかの問いが頭に浮かぶ。

物理的な要素としての時間は空間の中で過ぎゆくものである。
それは人が空間の解釈の中で時間をそのように定義づけていることによってそのように理解されていると私は思う。
時計の文字盤を見るとそのことは自明のように思える。
規則正しく針が動き続ける。
その運動の性質をそのまま時間の性質として私は日常的に理解している。

その一方で、空間と時間に向き合うとき、私には(ある意味で)、同一の空間の中に多様な層(諸相)を蓄積・堆積させるひとつの要素として時間は空間に関係づけられているようにも思える。
空間そのものは変化をしないが、そこに現れる諸相は時間とともに変化していく。
と同時に、そこにさまざまな空間の層を蓄積すると私は感じる。

私の作品はさまざまな空間の層の間に分け入り、隙間を形成しようとするものである。
それ(私の作品)は(空間のボリュウムを分割するのではなく、)時間の側から空間を分解する(解きほぐす)ものである。



画廊の空間に浮遊する、年輪の輪。
一つの輪は、一年という時間を表しています。
通常、年輪はこのように分解されることなく、塊として存在しています。
それを解きほぐして、空間に鏤(ちりば)める。

無数の時間(一年)が、順序もバラバラに、画廊に漂っています。
時間とは、何でしょうか。



輪の下から見た眺めです。
これも圧巻です。
テグスは細い雨のようで、輪は水の波紋。
水中から見た、細雨の景色のようです。


再び、時間とは何でしょうか。
それは、時計の針の進行ではありません。
当たり前のことですが、往々にして、わたしたちはそれを時間と思い込んでいます。
直線的な時間の進行を細分化して、日々時間と折り合いをつけています。

太田さんの作品は、空間の中に時間を出現させる試みです。
時間をピース(破片)にして、画廊の中空に浮かせています。
わたしたちは、そこに様々な時間のピース(一年間)を見て、感慨に耽ります。
眼の前の輪が何時の一年か分かりませんが、確かに、そこに一年があります。
生まれた年の一年かもしれないし、結婚した時の一年かもしれない。
(あるいは、生まれる前の一年かもしれません。)

そして、その一年は、貴方のある年の一年と重なります。
そう思ってしまうと、空中の細い輪が、とてつもなく大きなものに見えてきます。
それは、空間(地球とか銀河系とか)全体の変化(時間)を表象しているからです。
時間は過ぎるものではなく、蓄積、堆積されるものである。
なぜなら、眼の前の輪は過ぎた(消え去った)ものではなく、眼の前に現としてあるからです。

わたしたちは、時間を見ることを出来ません。
しかし、時間は空間に確かな痕跡を残していきます。
太田さんが解きほぐしたように、時間は蓄積、堆積されています。
更に考えていくと、空間そのものが時間で成立っていることに気が付きます。
変化のない空間とは、死の世界であり、変化(時間)があるからこそ、空間は存在するのです。
(そうでなければ、わたしたちは細雨の光景も見ることが出来ません。)

ご高覧よろしくお願い致します。

2002年藍画廊個展

2003年藍画廊個展
2004年藍画廊個展
2005年藍画廊個展
2006年藍画廊個展
2007年藍画廊個展



その他の展覧会案内(2008年7・8月)

北京/ART CHANNEL OPEN STUDIO「太田武志展」
7月7日〜7月24日
8月19日〜8月23日
http://www.artchannelnet.org/

奄美大島/田中一村記念美術館
「奄美、ボンジュール ドゥ フランス」展
7月20日〜8月10日
http://www.amamipark.com/isson/isson.html



会期


2007年7月14日(月)-7月19日(土)


11:30am-7:00pm(最終日6:00pm)


会場案内