伊藤信明展の展示風景です。
画廊内には四点の立体作品が展示されています。
いつものように各壁面ごとに展示をご案内したします。
画廊入口から見て、正面と右側の壁面方向です。 左は、作品タイトル「leg」で、作品サイズ36(H)×52(W)×18(D)cm、 「monkey」で、60×25×12cmです。 |
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入口横右の壁面方向です。 「embrace 」で、30×23×23cmです。 |
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左側の壁面方向です。 「stream 」で、98×44×40cmです。 |
その他、道路側ウィンドウに一点の展示があります。
作品はすべて、ボール紙、ポリエステル樹脂、アクリル系顔料を使用しています。
左壁面方向の「stream 」です。
美しいフォルムと色彩です。
植物の芽の、上に伸びようとする生命活動が当初のモチーフで、最終的には「stream 」(流れ)というタイトルになりました。
中央部に空けられた空間が、今回の展示の試みです。
以前の塊として表現されていた立体に、(日本画の)余白のような効果を与えるためです。
その試みは、作品と周囲の空間にほど良い融和を生んでいます。
正面壁面方向の「leg」です。
脚部(leg)のフォルム、動きに見えますが、あくまでもタイトルは制作過程ないしは制作後に付けられたものです。
多くの作品は、最初に事物のイメージがあるのではなく、形や色彩を模索しながら作品は制作され、イメージはその過程で得られます。
(「leg」の実際の色相は、上の画像よりも青みが強いと覚えています。画廊でお確かめいただけたら幸いです。)
美しいカーブを描く、右側壁面方向の「monkey」です。
サルが左手を振り上げているような、フォルムです。
制作過程を簡単に説明すれば、ボール紙で形を作り、その上にポリエステル樹脂を塗って整形し、アクリル系顔料で彩色して仕上げます。
一見すると素材が木や金属に見えますが、それらにはない造形の自由度と質量感が作品にあります。
入口横右壁面方向の「embrace 」です。
embraceとは抱擁で、作品を上部から見ると、二つの形があたかも抱きあっているかのように見えます。
道路側ウィンドウの展示です。 「forest」で、55×44cmです。 forestは森林ですが、森の主や精を思わせる像です。 他の作品と異なり、レリーフのような造形で、絵画的要素が強くなっています。 やはり、独特の質感が作品を際立たせています。 |
普通、紙で立体を作ると、紙の特質を生かした表情、表現を目指します。
(例えば、光を透過する紙の性質や柔らかな質感です。)
しかし、伊藤さんの立体は、一見すると紙に見えない。
紙には見えませんが、紙を使用する必然性が作品にはあります。
前述した、造形や彩色の自由度や質量感です。
立体作品の面白さは、角度を変えてみると違った表情になることです。
伊藤さんの作品は特に顕著で、掲載した画像は作品の一つの見え方に過ぎません。
是非多彩な表情を画廊でご覧いただきたく思います。
わたし達は学校で、主に西洋美術の教育を受けてきました。
歴史も実作も西洋美術に沿ったものでした。
日本の近代化教育が因ですが、日本人の考え方や生活の実態とはかけ離れた部分が多少ともあります。
伊藤さんの作品も、うっかりするとモダニズムの西洋美術に見えます。
しかし、じっくり作品と対面すると、日本人の考えや生活の相が現われてきます。
巧妙な表現ともいえますが、むしろ素直な表し方といった方が正確です。
自己が受けた教育を一概に否定せず、その内側から殻を破るように、立脚点を示す。
紙の文化や伝統的フォルムの洗練を、接ぎ木ではなく、溶け込ませるように表現する。
それが、伊藤さんのボール紙の立体作品です。
ご高覧よろしくお願いいたします。
2004年藍画廊個展
2005年藍画廊個展