藍 画 廊


草加登起夫展
「向こう側の表面」—水の裏側に触れるII—
KUSAKA Tokio


草加登喜夫展の展示風景です。



画廊入口から見て、正面と右側の壁面です。
左から、作品タイトル「向こう側の表面」—水の裏側に触れるII— No.2で、作品サイズF 30、
「向こう側の表面」—水の裏側に触れるII— No.3で、F 30、
「向こう側の表面」—水の裏側に触れるII— No.4で、F 6、
「向こう側の表面」—水の裏側に触れるII— No.5で、F 6です。



入口横右の壁面で、「向こう側の表面」—水の裏側に触れるII— No.7で、F 8、
「向こう側の表面」—水の裏側に触れるII— No.6で、F 10です。



左側の壁面です。
「向こう側の表面」—水の裏側に触れるII— No.1で、F 80です。

以上の七点が画廊内の展示で、その他道路側ウィンドウに一点の展示があります。
作品はすべてキャンバスに油絵具を使用しています。



左壁面の 「向こう側の表面」—水の裏側に触れるII— No.1です。
前回に続いて水面をテーマにした絵画の展示ですが、今回は水中に浮いている人物が主に描かれています。
基になっているのは写真で、撮影者(草加さん)が手で水中に防水カメラを入れ、ノーファインダーで撮っています。
ノーファインダーとは、ファインダーを覗かない、すなわちどんな構図になっているのか不明な状態でシャッターを切ることです。



正面壁面の左、「向こう側の表面」—水の裏側に触れるII— No.2です。
すべての作品で頭部、顔の一部が水面上にあります。
浮きながら、息をしているのでしょうか。
画面の上半分を占めているのは、水面の裏面(?)に映った水中の様子です。
水の揺れている様子が、とても美しいですね。



同じく正面壁面右の「向こう側の表面」—水の裏側に触れるII— No.3で、F 30です。
今年も猛暑で、お盆を境に一段落しましたが、涼しげな水の画面が心地良く眼に映ります。
浮いている人物も、リラックスした様子で、水に身体を任せています。
(実際このように浮くのには、それなりの熟練を要すると思いますが。)



右壁面の二点で、「向こう側の表面」—水の裏側に触れるII— No.4とNo.5です。
上半身のアップの連作です。
水の上と中の境は水面ですが、その実体は不確かです。
不確かですが、境はあって、水中と水上では映る景色が違います。



愛らしいテディベアの画面ですね。
入口横右壁面の二点、「向こう側の表面」—水の裏側に触れるII— No.6とNo.7です。
草加さんは以前にも、子グマの縫いぐるみをモチーフにした作品を制作しています。
その理由(わけ)は、縫いぐるみの表面と裏面に興味があるからです。
それを分かつ、膜のような存在に興味があって、モチーフにしてきました。

二作品とも、テディベアを水中に入れて撮影した写真を基に描画されています。
左の作品は水の存在が希薄ですが、基になった写真の画像がこのように写っていたそうです。


ブルーを基調にした、水中に浮かんだ人を描いた絵画。
草加さんの作品を一言で表すなら、そうなります。
しかしこの絵画の意味は限りなく深く、広いと思います。

水面は、水と大気を隔てている境です。
その境は視覚で確認できますが、境だけを取り出すことは不可能です。
では、どうして見ることが出来るのかといえば、太陽光があるからです。
もし光の届かない真っ暗な所であれば、見ることが出来ません。

光によって映される、揺れ動く水中の景色。
プールでご覧になった方おられると思いますが、とても美しいものです。
実体のない景色ですが、しかしそれを幻とは言い切れません。
物質(空間)と物質(空間)を繋ぐ、何かです。

水と大気は異なる要素から成立っていますが、その中間的な存在もあります。
水蒸気、です。
霧もそうですね。
大気と水は人間にとって欠かせないものですが、どうもそこには、連続性があるような気がします。

人は海から陸に上がった生物と考えられています。
人の誕生も、羊水(胎水)から大気への移動です。
後者の場合、境になるのは人の体です。
そのような境を超えて、人は人と成る(成った)のですが、それで終りではありません。
水葬という例もありますし、川を遡って彼岸から帰ってくる日もあります。

勝手な空想ですが、境(面、膜)とは太陽光の映し出す映画のようなものかもしれません。
ご存知のとおり、海水は蒸発して雲を作り、それが雨となって地に降り注ぎます。
雨は川となり、海に注がれます。
その循環の縁(結節)の場所が境であり、その目印として、あのような美しいモノを映し出している。
そう考えると、美しい虹も納得できますね。

縁(えにし)とはゆかりのことで、関係性を表す言葉です。
水と大気は、太陽光の仲立ちによる縁の関係です。
その恩恵があるからこそ、人は生を受け、生きていけるのです。
そして死後も、縁の向こう側で存在し続けるのかもしれません。

水中に浮かんだ人を描いた絵画。
この絵画の真の主役は太陽光で、そのように思って見れば、画面全体が光の輝きに溢れています。

ご高覧よろしくお願い致します。

2001年藍画廊個展
2002年藍画廊個展
2003年藍画廊個展
2004年藍画廊個展
2005年藍画廊個展
2006年藍画廊個展
2007年藍画廊個展



会期


2008年8月25日(月)-8月30日(土)


11:30am-7:00pm(最終日6:00pm)


会場案内