当然のことですが、ギャラリーで個展を開けば、その作家の空間というものが自然に形成されます。
そして、優れた作家の個展ほど、空間は心地よく、いつまでもそこにいたいという欲求が生まれます。
(他方、ほどよい緊張感も心地よさと同様、見る者をそこに押し止めます。)
作陶家、渡辺貴子さんのiGallery DCでの個展のワンシーンです。
壁面に散りばめられた44点の冬の記憶シリーズ。
直径10cm前後の楕円の陶の作品。
その表面の部分が丸く窪んでいて、中には雪の結晶のような模様が。
この広い壁面全体を使った作品が、ギャラリーの空気を支配しています。
それと対照的にも見える、反対側壁面の幾何学的な作品の数々。
しかし壁と壁の作品群は呼応して、冬の記憶を形作っています。
雪の結晶のような模様と対を為しているかのような、凹型の小形状の数々を含んだ作品。
(画像では凸型に見えるかもしれませんが、実際は凹んでいます。)
中心部のホールと、その横の四角を縦に二つ合わせた青い記号がアクセント。
陶のオモチャを思わせる、複雑に組み合わされた作品。
記憶の断片を繋ぎ合わせているのでしょうか。
どこからか音楽が聴こえてくるようなカタチの作品。
冬の詩(うた)。
それは反対側(対面)の44個の作品群のために奏でられているのかもしれません。
壁面のほぼ中央に位置する、大きな作品。
美しい乳白色と、端正な丸や四角やL字型。
陶の作品。
その多くは無彩色で寡黙。
まさに、冬の記憶です。
しかしギャラリーを流れる空気には、なぜか温もりがある。
それは冬が持っている温かさです。
寒く厳しい冬が内包する、かまくら(雪室)のような温かさ。
心地よい空間です。
一つ一つの作品が合わさって、その心地よさは生まれています。
渡辺貴子展/冬の記憶。
陶の心地よさを存分に味わって下さい。