塩入由美さんは、日常を描く作家です。
以前はもっぱら室内を描いていましたが、最近は戸外の公園などもモチーフになっています。
何れにしても日常です。
さて、その塩入さんの絵画が展示してあるギャラリーは、非日常的な場所です。
そう、現在(2011年7〜8月)塩入由美展を開催しているiGallery DCは、ホワイトキューブという実験室のような場所です。
ホワイトキューブとは、白い壁面を中心にした白い立方体のことです。
(実際は天井や床は白くない場合もあります。)
ホワイトキューブの壁は、映画のスクリーンのようなもので、壁でありながら、物質としては存在していないかのように振る舞う壁です。
映画のスクリーンが布でありながら、布であることを意識させないのと同じように。
その非日常的なホワイトキューブを仕事場としていわたしにとっては、ギャラリーは日常です。
週に四日は缶詰になって仕事をしているので、わたしの日常的な空間です。
そこで、塩入さんにお断りをして、展示の様子を切り取らせていただきました。
本来、絵画の一部を切り取って撮影するのは失礼な行為ですが、特別お許しをいただきました。
そして改めて、塩入さんの作品のユニークさをご覧いただきたく思いました。
展示作品のうち、わたしが最も好きな「ふとんの上の両手・1」の部分です。
何とも柔和な雰囲気を感じさせる作品で、ふとんと寝ている人物の両手だけが描かれているのに、これほど心が休まる作品もありません。
ふとんと人物のポーズは実際の通りだと思いますが、色合いはまったくの独創に近いでしょう。
日常をよく観察していれば、このような優しい光景を発見できるのですね。
これも部分ですが、「右腕・1」という作品です。
タイトル通り、右腕が描かれているだけの作品ですが、味がある。
ゴロンと絨毯か畳の上に転がっている右腕。
それだけなのに、こちらに伝わってくるものがあります。
う〜ん、それは何でしょうか。
愛情、みたいなもののような気がします。
これはiGallery DCの天井の蛍光灯です。
塩入さんの真似をして、(わたしの)日常を切り取ってみましたが、勝負になりませんでした。
塩入さんの持っている、サムシングエルスが欠けてますね。
わたしはそのサムシングエルスが大好きなのですが、残念!
「砂場」の部分です。
展示作品中、もっとも難解(?)な作品で、これが公園の砂場だとはなかなか分かりません。
塩入さんには小さなお子さんがいるので、よく公園に出かけるのでしょう。
それまでは室内だけを描いていましたが、(多分)お子さんとの関係で、公園も日常に組み込まれたと思います。
この作品も構図に捻りがありますが、色がとっても良いですね。
塩入さんにしか描けない、絵です。
これは「すべり台」の部分ですが、ギャラリーの壁面とのコラボです。
iGallery DCは入口側が開口になっていて、西から陽が入ります。
そのためにロールカーテンが吊るしてあるのですが、その隙間から少し陽が入ってきます。
その陽の射(はい)り具合が「すべり台」と合っていたので、パチリ。
「ソファーの上の座布団」の部分です。
「ソファー」という小品も展示されていますが、そのソファーの上に置かれた座布団を描いた作品です。
不思議なことに「畳の上のクッション」という作品もあって、ソファーだったらクッションで、畳だったら座布団だろうと思いました。
しかし間違いなくこれは座布団のようで、中心に座布団の印のようなものがあります。
クッションの方は、色はほとんど同じですが中心はのっぺらぼうです。
和洋が混在した日常を意図的に描いたのではなく、ふと気が付いたら、そういう光景があったのでしょう。
日常とは、考えてみれば不思議なものです。
わたしが外国に行って一番見たいのは、観光地ではなく、その国の日常です。
外国では、まっさらな目で、日常を見ることができるからです。
日常とは、つねひごろ、ふだんのことですが、見方を変えると、文化の最底辺(基底部)を形成しているもののことです。
そういった日常は、自国の中では、当たり前すぎてなかなか目に入りません。
塩入由美さんは、日常を先入観なしで見ることができる希有な人かもしれません。
そしてそこで発見した日常を、独自の構図と色で表現しています。
表された日常は、とても新鮮です。
つねひごろ、ふだんが、どういうわけか、素敵にフレッシュなのです。
楽しみな人(作家)です。