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 探偵物語(13)


探偵物語(12)からの続き

都心の野原から数日後、わたしはダイナマイト・シティの野原にいます。
今日は休日で、ここにわたしの足を止めるものがあったからです。



溜まった私用でクルマを走らせていると、道路脇の濃いピンクが一瞬目に入りました。
何だろうと思ってバックミラーを見ると、パープルなピンクが絨毯のように一角を占めています。
慌ててクルマを空地に停め、このショッキングなピンクの真相を確かめに行きました。



葡萄畑の下に群生した、野の花のようです。
名も知らぬ花ですが、ビッシリと畑に咲いています。
葡萄畑は休耕中のようで、所々を除き、棚を支えるコンクリートの柱だけが目立ちます。


時々通っている道なのに、まったく気が付きませんでした。
いつの間に、パープルピンクの花園になったのでしょうか。
しかしこのピンク、妙に心を騒がせる色です。
行ったことはありませんが、異界の景色、のようです。
秘密の、花園なのでしょうか。


ピンクの花園の周りは、真っ昼間の日常の時間です。
この場所だけ、非日常の色彩感覚に支配されています。
ピンクとグリーンの二色だけが目に入り、その強烈な補色関係が網膜を刺激します。

もしわたしが仕事中であったなら、目を眩ます罠かもしれないと注意を喚起したでしょう。
(残念ながら、罠を仕掛けられるようなサスペンスな仕事をしたことがないのですが。)
花は雑草に近い種類ですが、葡萄畑の区画だけに咲いているのを見ると、畑の所有者が種を蒔いたと推測されます。
何ゆえに、このような不思議な色の花を選んだのでしょうか。
又、花が満開のときの光景を計算して、種を蒔いたのでしょうか。



わたしは職業柄、多種多様な人と会います。
その経験からいえば、異形な容姿な人ほど中身は凡庸で、普通の容姿の中の極く少数に、とんでもない中身の持主がいます。
多分この畑の所有者は、一見はありきたりの農夫でしょう。
地下足袋に麦藁帽子で、トラクターをノンビリ走らせているかもしれません。
あるいは、何食わぬ顔をして軽トラのハンドルを握っているに違いありません。
恐るべき色彩感覚の主とは、えてしてそのような人なのです。

さて、この花の命はそう長くはありません。
一週間もすれば、瑞々しさを失うでしょう。
異様ともいえる光景に、わたしは快感と少しの興奮を覚えながら眺め続けました。
どうせ今日は休日です。
私用も、特に急ぐ必要はありません。
偶然出会った花園に佇んで、光景を切り取り始めました。
何か、得をしたような気分で。