中村元展の展示風景です。
床に設置された六点の立体。
曲面のツルンとした白いプラスティックの物体の、中央に円形の窓。
物体の鼻(?)からは二本の太いコードが壁に伸びています。
形状的には体重計を連想させますが、どう見てもそれではありません。
低い視点から見てみました。
若干ユーモラスな形状ですが、新手の電気製品のようにも見えますね。
中央の窓の中では何かが動いていて、モーターの回るような音も聞えます。
円形の窓です。
薄橙色の液体が入っていて、それが定期的に中央の白いノズルから吹き出します。
ノズルのベースになっている黒い円盤には白いアームが付いていて、これも時々回転します。
どうやら液体を撹拌している様子。
しばらく見ていると、噴射された液体は下でプールされて、再び噴射という循環になっていることに気付きます。
画廊には中村さんの記した作品に関する小文が置かれています。
以下に転載いたします。
制作にさきだって、器官について考えていました。
私の作品に共通することの一つだと思っています。
種族、文化、性、感情などが判然としない、物体としての器官に興味があります。
医学や生物学で解明されていることを、私じしんは、闇や謎のままにして、
そこから着想しています。
2008年12月8日
中村 元
なるほど、画廊の床に置かれたのは、中村さんが自作した器官(から着想した作品)だったのですね。
この器官のイメージの基になっているのは、恐らく人間の臓器だと思います。
体液が管を伝わって循環している様は、人の腎臓などを想像させます。
この器官は多くのパーツから成っていて、それは中村さんが収集して加工変形し、マイコンで制御させています。
動力は電気で、器官から出ている二本のコードは壁の二箇所のコンセントに接続しています。
(壁のコンセントも新たに設置した自作です。)
画廊内の作品はご覧いただいた床置きの六点ですが、道路側ウィンドウに平面作品が展示されています。
夕刻に撮影したので照明がグラデーションになっていますが、丸いパネルに油彩の平面が六点展示されています。
描かれているのは画廊内の器官で、二本のコードの様子が、とってもチャーミング。
パネルの配置も無作為な感じで和めます。
中村さんの記した小文を読むと、ツルンとした白い物体の意味が理解できます。
種族、文化、性、感情などの属性を剥ぎ取るために、あのような形状になっているのです。
しかしあの衛生的で無機質な形体は、器官の生々しさとは対照的です。
それはとりもなおさず、わたしたちが近代という時代に生まれ育っていることを表しています。
動物や植物は、多数の細胞から組織を構成し、複数の組織が集まって器官を構成しています。
わたしたちが生命の働きを視覚的に認識するのは、器官の構造、動きからです。
器官は機械の構造に喩えられて、その働きをメカニズムなどと称されます。
そして機械と同等に扱うことによって、医学は進歩してきました。
中村さんの自作した器官には、生命を感じます。
それは純粋なメカニズムで冷たい外観をまとっていますが、それに反するような、温かさが感じられます。
生命のプロトタイプ(原型)ともいえる単純な循環が、ハートを打つのです。
その温もりは、丸いパネルに描画された器官と響き合っています。
中村さんの作品の面白さは、それが単なる批評で終わっていないことです。
複雑で冷たいシステムの殻を借りながら、ローテクで手を酷使して、システムを解きほぐしています。
システムの根本のシンプルな動きに戻って、そこに、中村さんの表現を吹き込んでいます。
ご高覧よろしくお願い致します。
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2008年12月8日(月)-12月13日(土)
11:30am-7:00pm(最終日6:00pm)
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