松井圭太郎展の展示風景です。
藍画廊の入口を入ると、画廊空間のほぼ中央に大きな立体が設置されています。
作品タイトル「Living large 2008」で、作品サイズ930(H)×1850(W)×40(D)mmです。
作品は漆・麻布・土・顔料を使用しています。
(画廊入口から見て)左の壁面です。
左から、「通奏低音 2」で、60×900×20mm、「通奏低音 3」で、60×900×20mmです。
二点とも漆・木・顔料を使用しています。
以上の三点が画廊内の展示で、その他道路側ウィンドウに一点の展示があります。
左壁面左の 「通奏低音 2」です。
「通奏低音 」はシリーズですが、作品の発想は通奏低音という漢字の並びや響きから始まったそうです。
因みに、辞書で調べると、通奏低音はバロック音楽の演奏形態の一つです。
同じく左壁面の「通奏低音 3」です。
松井さんの作品は漆を用いているのが特質ですが、「通奏低音 2」「通奏低音 3」にも使われています。
拭き漆という技法で、塗った漆を拭きとって、木地の凹部にだけ漆が入り込むようにします。
それを何回も繰り返すと、ご覧のように木地の木目を活かしつつ、深いつやを帯びた表面になります。
木で造られた形と、その間の空間の対比が何とも美しい作品です。
「Living large 2008」を裏側(正面壁面側)から見てみました。
この作品にも漆が使われています。
制作過程をごく単純化すると、まず発泡スチロールなどで形を造り、それに麻布を漆と土で塗りこめます。
何層も塗りこめた後、形を外します。
遠目には分り難いのですが、近づいて見ると、表面に地図やいろいろな文字が描かれています。
表側(入口側)にはアジア地域の地図が描かれています。
上の画像は、日本と朝鮮半島の部分です。
その地図のあちこちに英語の文字が見え隠れしています。
裏側の部分です。
こちらはイタリア、地中海を中心にした地図で、同じように文字も描かれています。
漆を使った漆器は伝統工芸品です。
漆を英訳するとjapanese lacquerで、漆器は単にjapanと呼ばれることもあるそうですから、日本を代表する技法、工芸品ですね。
松井さんの作品は漆を使っていますが、伝統を前面には出していません。
表現の内側に、技法と伝えられてきたモノが込められています。
松井さんの作品は、形が美しい。
木の作品も、大作「Living large 2008」も、美しい形をしています。
そしてその形に見合うように、表情が麗しい。
漆の語源の一つに麗(うるわ)しがあるそうですが、文字通り、麗しい色艶をしています。
現代美術に於いて、和風であることは存外に難しいものです。
わたしたちの体内には伝統(和風)が染み込んでいますが、それだけを表出しても意味がありません。
わたしたちの在り方と伝統の関係に深い考察がなければ、表象に終わってしまいます。
松井さんの作品で面白いのは、伝統(和風)がまるで隠し味のように感じられることです。
現代的な造形と息遣いを持った作品から滲み出る潤い。
(潤ーうるおしーは、やはり漆の語源の一つです。)
その潤いに、遠くて長い時間の連なりが潜んでいます。
ご高覧よろしくお願い致します。
2005年藍画廊個展
会期
2008年11月3日(月)-11月8日(土)
11:30am-7:00pm(最終日6:00pm)
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