藍 画 廊



佐原路子展
「balance/limit」
At this point she burst out crying その瞬間彼女はわっと泣きだした
SAHARA Michiko


佐原路子展の展示風景です。



画廊の正面壁面から床に向けて設置された、インスタレーションの作品です。
作品タイトルは「Balance/limit」です。
画廊内の展示は上記作品一点で、その他道路側ウィンドウに一点の展示があります。



「Balance/limit」の上部です。
一つの赤いプラスティックのハンガーがフックに掛っていて、それから次々にハンガーが繋がっています。
画廊に佐原さんのテキスト(コメント)がありますので、転載させていただきます。


作品について

この世にあるものは、すべて個の集まりによって出来ている。
一つの個が集まり、集団が生まれあるかたちを成す。

全体の中で、個は大きな役割を果たしている。

だが、どこか一つが崩れれば、全体の崩壊へと進んでいく。
それぞれが微妙な力加減で繋がり、均衡が保たれ成立している。

個と個の接点における、バランスは興味深い。
その緊張した瞬間は、美しいかたちを生み出している。

芥川龍之介の『蜘蛛の糸』の中で、蜘蛛の糸にしがみついた罪人たち。
最初にしがみついた罪人、犍陀多(かんだた)と続く罪人たち。

「赤」という生命を象徴する色。
肩のかたちをした「ハンガー」のかたち。

そんなところからイメージは始まった。



「Balance/limit」はインスタレーションの作品ですが、部分を見れば、違った側面が表れます。
白い壁面に、鮮やかな赤のハンガーが形作る模様。
平面作品として見ることもできます。



ハンガーの繋がりの最後の部分です。
天井近くの始まりとは遠く隔たれていますが、確実に繋がっています。
全体で一つの系を成していて、それは個と個のバランスが支えています。



道路側ウィンドウに展示された「Balance/limit」です。
右上のビルはガラスへの映り込みです。
三本のハンガーが微妙なバランスで繋がっていますね。
美しいかたちです。
画廊内のインスタレーションのプロトタイプ(原型)ともいえる作品です。


肩を組む、という言葉があります。
同じ志であること、又共同で物事に取り組むことの意です。
上の三本のハンガー、頭を寄せて、楽しそうに肩を組んでいるように見えます。

肩身が狭い、肩ひじを張る、肩の荷を下ろす、双肩にかかる、肩の力を抜く、などなど、肩を比喩的に使った言葉は多くあります。
人の後ろ姿、特に肩のシルエットは何よりもその人を表しています。
その人の肩のかたちを、単純になぞったのがハンガーです。
普段は陰の小物のハンガーですが、佐原さんによって、今回は主役の場に躍り出ました。

個の連鎖で系を形作る作品は珍しくありません。
現代美術の傾向の一つといえます。
佐原さんの作品が面白いのは、個をハンガーで象徴していることです。
前述したように、肩には幾多の意味があって、個の連鎖のバランスも一つではありません。
親しみもあれば、よそよそしいさもあり、危うい関係もあります。
そのような連鎖の総体が、全体のバランス/均衡になっています。

佐原さんが多くのハンガーから選んだのは、鮮やかな赤のシンプルなハンガー。
その複雑な連鎖は、人間の体内の血液の流れを想像させます。
モダンなかたちのハンガーが、微妙なバランスで連鎖すると、肉感的な生命の様相を呈します。
狙い(コンセプト)とはいえ、そのバランスも絶妙です。
藍画廊の天井高を活かした展示も、見応えがあります。

ハンガーのかたちは、不思議です。
その平面的なかたちは、安定しているようで、不安定。
掛けようによっては、どちらにも転びます。
バランスの振幅を有する、かたちです。

ご高覧よろしくお願い致します。

2005年藍画廊個展



会期


2008年3月31日(月)ー4月5日(土)


11:30amー7:00pm(最終日6:00pm)