小日向千秋展の展示風景です。
細長い漆黒のポールが天井に向かって伸びています。
ボールの数は十二本。
カメラを引いて全体像を見てみましょう。
林立するようにポールが並んでいます。
ポールは、植物の芽が上に伸びるように、天空を目指しています。
ポールの大きさは、おおよその平均で200(H)×20(W)×25(D)cmです。
技法は脱乾漆像です。
脱乾漆像とは、まず粘土で原形を作り、その上に漆に浸した麻布を貼り付けます。
乾燥後又麻布を貼り付け、それを繰り返します。
最後に粘土を取り払うと、中が空洞になった漆の像が出来上がります。
脱乾漆像は軽量にもかかわらず丈夫で、天平時代の観音像、仏像の多くがこの技法で作成されています。
代表的なのが、東大寺三月堂不空羂索観音立像です。
スリムな像(ポール)の姿が優美です。
像の数は十二体。
最初からそう決めて制作したわけではなく、途中で十二支、十二神将に因んだそうです。
本展のサブタイトルは「Growth/BLACK」で、成長、成育を表しています。
しかしこれも、途中から浮かんだタイトルで、制作当初は自由に粘土をこねて形を作っていったそうです。
予めイメージを作らず、身体が欲する形態を模索して、このような像が出来ました。
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道路側ウィンドウに展示された作品です。 この三点には「Black Water」というタイトルが付けられています。 サイズは三点共、直径23cmで厚みが6cmあります。 水をテーマにした、漆黒の作品です。 製法は同じく、脱乾漆像です。 |
小日向さんの造った像は、芽が伸びる植物のようでもあり、アフリカの神像や観音様にも似ています。
いずれにしても、生命力や古代の宗教を感じる作品です。
小日向さんは、テーマを決めずに制作に着手したといいます。
粘土を手でこね、形を徐々に作り上げていって、この細長い像に行き着いたそうです。
テーマ(主題)が最初にある近代的表現とは反対のやり方で、制作したそうです。
(いつもは、小日向さんもテーマから入っていくそうですが。)
手の思考で形を造り、それを精神でまとめあげていったのが、今回の作品と展示です。
作品に近づいて見ると、優美な曲面の連続に、多彩な表情があります。
黒一色のストイックな世界にも関わらず、包容と優しさがあります。
布と漆の質感が、光を微妙に吸収、反射しています。
近代のテーマ主義は、人間の精神の発露が像として現されます。
小日向さんの作品も、そこから大きく外れるものではありません。
しかし、この細長い像には、何かが宿っているような気がします。
何かが宿る、とは近代以前の物体、像の特徴です。
例えば、諏訪の御柱(おんばしら)には山から下ってくる神が宿ります。
そのような超自然現象に関わるのが、宿る物体、像です。
もし何かが宿っているとしたら、それは手が招いたものです。
手の思考が、招いたものです。
漆は主に工芸で使われる材料ですが、そのことも関係しているのかもしれません。
工芸の職人は、頭ではなく手で考えるからです。
(私見ですが)工芸には、宿るという発想が生きていると思われるからです。
ご高覧よろしくお願いいたします。
2004年藍画廊個展
2005年藍画廊個展