富田勝彦展 「麗」の展示風景です。
画廊入口から見て、右側の壁面です。
壁面のほとんどを占める大作は、パネル(600×600mm)28点で構成された「滝桜」です。
綿布、アクリル絵具、特殊蛍光塗料を使用しています。
「滝桜」は福島県三春町の三春滝桜を描いたものです。
ご覧の通りの巨木(紅枝垂れ桜)で、樹齢は一千年を超えます。
富田さんは花や植物を描いてきました。
今回は桜、それも一本桜にこだわり、行き着いた先が三春町の「滝桜」です。
樹齢一千年を超えた銘木の華やかで、圧倒するような美しさ。
木が見続けてきた歴史の時間を想像すると、気が遠くなります。
「滝桜」には仕掛けがあって、照明を落とすと・・・・・。
昼光が月光になり、夜桜に変身します。
滝と形容される三春の桜ですが、夜桜の方がより滝に見えるかもしれません。
仕掛けは特殊蛍光塗料とブラックライトですが、塗料は描き直しが効かないので一発勝負になるそうです。
「滝桜」は制作にほぼ一年を要した大作です。
反対側の左側壁面には四点の平面が展示されています。
こちらは染井吉野で、富田さんのご近所の桜だそうです。
使用画材は「滝桜」と同じで、パネルの大きさは四点共B2(728×515mm)です。
この作品も特殊蛍光塗料を使用しているので、夜桜に変身します。
以上が画廊内の展示で、その他道路側ウィンドウに二点の展示があります。
富田さんの平面は、アッケラカンとした明るさがあります。
今回の展示もそうです。
画廊に入ったとき、拍子抜けするような明るさがあって、少し戸惑います。
似たような経験があるな、と思って記憶を辿ってみました。
探り当てたのは、歌舞伎の舞台です。
フラットな照明が当てられた歌舞伎の舞台。
しかも、芝居が始まっても客席の照明が落ちません。
近代演劇に馴れていると、最初は落ち着きません。
明るすぎて、どこに焦点を合わせていいのか困ります。
しかし、しばらくすると安楽な気分で芝居を楽しむことができます。
富田さんが歌舞伎の舞台を意識しているかどうかは不明ですが、わたしは似ていると思います。
明快な色使いや奥行きの表現も近いものがあります。
「滝桜」の分割されたパネルは、どんな場所でも展示可能な「ユニット絵画」形式ですが、歌舞伎の装置も同じです。
小屋が変わっても、同じ舞台が再現されます。
又、仕掛け(ギミック)を多用するのも歌舞伎の特徴ですが、富田さんの特殊蛍光塗料もそうですね。
つまり、富田さんの方法論は西洋絵画ではなく、歌舞伎のようなポップ(大衆)な表現に近いと思います。
そう解釈すると、アッケラカンとした明るさに親しみがわきますし、その様式性と表現が頷けます。
歌舞伎見物も花見も行楽ですが、行楽に潜む思想は決して侮れません。
画廊の壁面に貼付された記念撮影の案内です。 ポラロイド写真二枚で千円です。 実際の三春の「滝桜」は見物客が多すぎて、個人だけの記念撮影は難しいそうです。 それで、考案したのが作品の前での記念撮影。 これも、歌舞伎見物にお土産が付き物なのと似てますね。 ご高覧よろしくお願いいたします。 |