「世界」2007 渡辺寛展
WATANABE Hiroshi


iGallery企画「世界」の2007年展は、渡辺寛さんの個展です。
展示風景です。



画廊入口から見て、正面と右側の壁面です。
左の壁面全体に展示された作品は、タイトル「交通-高速道路」で、サイズは約3180(H)×82340(W)mmで、紙にインクジェットプリントです。
右壁面の額装された作品、左から「“交通-運河”2000-2004 grandunioncanal e2 niche」、「“交通-運河”2000-2004 grandunioncanal e2 backyard」、「“交通-運河”2000-2004 grandunioncanal e2 thicket」、「“交通-運河”2000-2004 grandunioncanal e2 greennet」です。
サイズはすべて590×453mmで、ラムダプリントです。



入口横右の壁面です。
左から、「“交通-運河”2000-2004 grandunioncanal e2 grove」、「“交通-運河”2000-2004 grandunioncanal e2 parallelism」、「“交通-運河”2000-2004 grandunioncanal e2 tworedhuts」、「“交通-運河”2000-2004 grandunioncanal e2 shed」、「“交通-運河”2000-2004 grandunioncanal e2 chair」です。
サイズはすべて590×453mmで、ラムダプリントです。



左の壁面です。
左の額装された作品、左から「“ 交通 - 運河 ”2000 - 2004 grandunioncanal e1 mansionwall」、「“交通-運河”2000-2004 grandunioncanal e1 railwaybridge」です。
サイズはすべて590×453mmで、ラムダプリントです。
壁面全体の展示作品は正面壁面から続いています。

以上の十二点が画廊内の展示で、その他道路側ウィンドウに一点の展示(ページ最上部の小さな画像)があります。



画廊の二面の壁面全体を使った「交通-高速道路」です。
東京の隅田川沿岸を走る首都高速道路を撮影したものです。
撮影した画像を分割し、A3ノビサイズの用紙にインクジェットプリントして、(再結合して)壁面に直接貼ってあります。
作品の部分をご覧いただきます。



最下部が隅田川で、中央が首都高。
今昔の交通の主流が平行して走って(流れて)います。
その間には、ブルーテントの簡易住居が並んでします。
首都高の向こう側には、中層の集合住宅が建っています。

「交通-高速道路」は、二枚の写真で成り立っています。
正面壁面と左壁面の角の部分で一枚。
その風景から左にずらしてもう一枚撮影したものが、左壁面の角の一部と左壁面と画廊入口の壁の縁に展示されています。
整理すると、二枚の写真でパノラマを形成していて、画像の重なる部分が左壁面の角になっています。
画廊入口から正面壁面を見れば、一枚の風景写真で、道路側から左壁面を見れば、その続きの一枚の風景写真になっています。



右壁面の展示です。
写真が額装されて、隙間なく並べられています。
イギリスロンドンの運河の風景です。
各作品は上下二枚の写真で構成されています。

対岸から撮影したもので、上の部分をまず撮影し、カメラを真下にずらして、もう一枚撮ります。
壁面の大作「交通-高速道路」が左右にカメラを移動させているの対し、こちらは上下に移動させて撮影しています。
方法としては同じで、風景(画像)の重なる部分がそのまま表出されているのも、同じです。
上の画像でいえば、右の作品の場合、岸辺に生えている草の同じ部分が上下共に写っています。



入口横右壁面の展示です。
同じくロンドンの運河です。
渡辺さんには、リフレクションシリーズ(水面やガラスに映った風景を撮影)がありますが、この作品の下半分は水に映った風景です。



右から二番目に展示された、「“交通-運河”2000-2004 grandunioncanal e2 shed」です。
shedは物置の意で、タイトルを訳せば、グランドユニオン運河沿いの物置となります。
水に映った風景、美しいですね。
上半分の現実の風景(?)との対比も、一興です。


画廊に入ってまず圧倒されるのは、壁面全体を使った「交通-高速道路」です。
眼前に広がる沿岸の首都高速道路。
マット(つや消し)なインクジェットプリントが、独特の質感を風景に与えています。
他方、鮮やかな色を発しているのは、額装された運河のシリーズです。

一見、繋がりのなさそうな二つのタイプの作品です。
よく見ていると、その風景が水辺で、交通に関係していることに気が付きます。
隅田川とグランドユニオン運河。
その昔は、水上交通が盛んであった川、運河です。
物資や人が頻繁に行き来していたと思います。

隅田川の上には首都高速が通っています。
これは現代の交通です。
その中間には、都市の漂民が住み着いたブルーテント。
グランドユニオン運河には、沿岸に住んでいる人々の生活の裏側が現われています。

交通とは、人と物の流れです。
その流れが大きいと、それは幹線と呼ばれます。
幹線には経済が集中し、沿線に産業、商業施設と住宅が密集します。
鉄道の駅ができて、それまでの商業中心地が駅前に移動していったのは、記憶に新しいと思います。
その駅前も、クルマ社会の地方では、今や幹線のバイパスに客を奪われています。

交通と、そこにある生活。
渡辺さんは、風景に何を見ているのでしょうか。
わたしは、本展のテキストに「観光」の視点について書きました。
観光とは、「旅客鉄道の発足と共に生まれた車窓の眺め-から始った視点」です。
もちろん、何の実証もない想像ですが、あながち間違っているとは思いません。

渡辺さんは観光客でない、つまり観光の視点で眺めていないのは間違いありません。
では、どのような視点でしょうか。
観光客と似たような言葉に、異邦人があります。
外国であれば、観光客と異邦人は重なる部分もあります。

しかし、視点はまったく異ります。
観光客には還るところがありますが、異邦人には(大概)ありません。
異邦人にとって、その地は、よそよそしく無愛想です。
もし異邦人が、その地と関係を持ちたければ、その風景の中に何かを探る必要があります。
渡辺さんの語っていた言葉で表せば、「風景を読む」必要があります。

渡辺さんの視点とは、異邦人の視点に近いかもしれません。
被写体との距離は、異邦人のそれかもしれません。
(翻って考えれば、わたしたちは皆異邦人であり、時々観光客なのです。)

交通を、通過される景色の側から見る。
つまり、後方に流れていく景色ではなく、そこに留まっている景色から交通そのものを見る。
流れに惑わされることなく、交通をとおして、生活と風景の関係を丹念に見る。
そこで撮影されたものが、新鮮な輝きに満ちているのは、
やはり、秀でた異邦人の眼があるからだと、わたしは思います。

ご高覧よろしくお願いいたします。

「世界」2007 渡辺寛展/テキスト
2002年藍画廊個展

iGallery企画 「世界」2007
渡辺寛展
WATANABE Hiroshi

2007年12月10日(月)-12月22日(土)
日曜休廊
11:30-7:00pm(最終日-6:00pm)


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