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「探偵物語(72)」


探偵物語(71)の続き

しかし、世界はわたしが知らないことだらけです。
ハワイが幻想の楽園だったとは、露ほども知りませんでした。
ワイキキのビーチに通じるメインストリートは、ブランドブティックがズラッと並んでいます。
その様は銀座や原宿と同じですが、やはりどこか南国の解放感に満ちています。

煩わしい日常や仕事を忘れ、常夏の島の爽やかな風で心を休める。
そして買物で消費欲を充足させる。
それは、楽園です。
間違いなく、太平洋に浮かぶ楽園です。

しかも、観光スポットでは大概日本語が通じます。
こんなラクチンな外国は他にないでしょう。
景色は間違いなく外国でも、日本国内にいると同じような安楽さです。



しかし、この島に元々住んでいた人達にとってはどうなのでしょうか。
ここは今、楽園なのでしょうか。

ガイドブックによれば、ハワイの歴史は「たった200年で原始から近代へ」移行したそうです。
原始のハワイは無文字文化で、貨幣制度も土地の所有制度もなかったそうです。
自給自足の、実体経済だけの社会です。
今の価値観でいえば遅れた社会ですが、現代のような極端な貧富の格差も不条理な犯罪もなかった社会です。

ハワイの原始社会では、その日その日の糧は自然から得て、また必要以上採ることは「カブ(ハワイ語でタブーの意)」として禁じられていました。
このカブの意味は、蓄財による富の偏在と、そこから権力が発生することを防ぐ知恵だったと想像されます。
そのような戒律を持つ社会は未開で遅れた社会ですが、ある意味では本当の楽園だったのかもしれません。
豊かさが、人間の外側ではなく、内側にあったように思えるからです。



ハワイの海に浮かぶ小島です。
美しい海ですね。
ハワイは幻想の楽園ですが、このような自然も沢山残っていました。

ワイキキのビーチやメインストリートを歩いて気が付くのは、刺青(タトゥー)をした人が多いことです。
観光客や子供を除くと、多くの人が腕や足、背中に刺青を入れています。
刺青の模様や文字は様々で、中には漢字や日本の家紋もあります。
ビーチボーイやサーファー系は、白人、ハワイ人問わず、刺青が目立ちます。

大概はファッションの刺青ですが、ハワイ人の刺青には伝統的と思えるものがあります。
それは、この島が本当の楽園だった時代の名残のようで、刺青が陽の光で輝いていました。



ご存知のように、ハワイは主要な八つの島を含む群島です。
ホノルルのあるオアフ島が観光地として最も有名ですが、まだそれほど観光化されていない島や場所もあるそうです。
意外に奥の深いのが、ハワイかもしれません。

日本人にとって、ある時期からハワイは夢の島です。
そのイメージを作ったのは、1961年のサントリーの「トリスを飲んでハワイに行こう」のキャンペーンです。
まだ海外旅行の自由化前で、国民が懸命に働いていた高度経済成長の時代です。
その時代にハワイは夢の島として現れ、今は豊かになった日本人で溢れています。



連絡のないままワイキキで三日を過ごし、帰り支度をしていた時に電話が鳴りました。
ハワイの探偵事務所からです。
男の所在を確認できた、との連絡です。
男はハワイ島の高級リゾートホテルに宿泊していました。
やはり女と一緒で、ゴージャスなゴルフ三昧の毎日だそうです。

これはハワイの探偵事務所の手腕というより、男の確信的な所業です。
メール同様、必要以上に隠さず、「訴えられるものなら、訴えてみろ」といった、半ば挑発的な態度の現れです。
わたしは日本の依頼者に電話報告をし、ハワイ島行きの便を予約しました。
所在を現認して、依頼者の来訪を待つ予定です。
男の身が、夢から現実のハワイへ切り替わるのは、そう遠いことではありません。