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探偵物語(63)


探偵物語(62)の続き

わたしは学生時代から音楽が好きで、特にロックを好んで聴いてきました。
ロックの名曲に『クロスロード』があります。
正確にはブルースの古典のカヴァーですが、それをCreamというバンドが採り上げて、一躍ロックの名曲になりました。
Creamは、いうまでもなくエリック・クラプトンが在籍していた、60年代を代表するロックバンドです。

クロスロードとは十字路(辻)のことで、このブルースの名曲には伝説があります。
十字路には特別な力があって、そこで悪魔に魂を売って、ギターの名手になったという話です。
その話がブルースシンガーにまつわる伝説なのか、歌詞の話なのかは忘れました。
ともあれ、洋の東西を問わず、十字路(辻)は特別な場所だったのは間違いありません。
(後年、映画『オー・ブラザー』にブルースのクロスロード伝説が織り込れているのを見ました。)

日本の道祖神は、元来中国の神様だったようです。
日本の神と習合して、道の神様になりました。
特に、ダイナマイトシティやK市のある関東甲信越に道祖神は多く、わたしも度々眼にします。

わたしは探偵ですから、探し物をしていて、十字路に立つことがあります。
さて、どちらの道に行ったら良いのか。
そんな時、道祖神に訊ねても答えは返ってきません。
道祖神は実利よりも、村落の安全、安泰の神様ですから。



ダイナマイトシティのメインロードです。
十字路といっても、幹線と脇道の交差する場所で、横断歩道が設置されています。
ゼブラマークが目立ちますが、人が横断するのは稀です。
第一、地方ではクルマに比べて歩行者の数が圧倒的に少くないのです。
この横断歩道、信号機も付いていないので、走るクルマの間隙をぬって渡らなければなりません。

昨今の話題として、ガソリン税に絡んで道路財源が問題にされています。
世情に疎いわたしでも、クルマは商売道具ですから、興味があります。
地方の機動力に、クルマは欠かせません。

しかし、そうなる前には、人はテクテクひたすら歩きました。
ひたすら歩く途中に、道祖神があって、一息付いた。
あの石像に類したものが辻にあって、人はそこが村落の境であることを確認し、異界との境であることも知っていました。
道にはそのような場所があって、それはそれで、生活に欠かせないものでした。



ダイナマイトシティが市町村合併で誕生する前、この先の十字路(辻)は町村の境でした。
今は広い道路が開通して、立派な交差点があります。
横断歩道も完備されていますが、やはり渡る人はほとんどいません。
クルマが、走っているだけです。



十字路(辻)です。
道祖神の替わり(?)に、歩行者を保護するポールが並んでいます。
あのチャーミングな石像と比べると、何とも素っ気ない。

この十字路(辻)に何があるのでしょか。
何もありません。
空っぽです。
点滅する信号機とクルマの騒音。
それだけです。

再び、あの石像をご覧下さい。
そこには何か、ありますね。
道祖神にも、猫が隠れるぐらいの空間はあります。
(そうそう、あの猫は翌日無事捕獲しました。一応仕事もちゃんとやっていますよ。)

道と道が交差する。
ただ単に、それだけになってしまった十字路(辻)。
一介の探偵は、(ヘボだが)それを忘れてはいません。
わたしの探し物は、そういうところにあるのです。