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探偵物語(62)


このところ人間の捜索が続いて、猫の方はご無沙汰でした。
探偵事務所の経営としては、その方が真当なのですが、時には猫探しもやりたくなります。
捕獲に成功した時の快感は格別ですし、飼い主と猫の双方の幸せに貢献できます。
猫の家出には季節があって、いわゆるさかりの時期になると、一気に増えます。

そう、今は秋と並ぶさかりの時期です。
雌猫に誘われて、雄猫は通常より遠くまで出掛けます。
本能の赴くまま遠出した猫は、家路を失うことがあります。
猫の家出です。

予想通り依頼がボツボツと来るようになり、反比例するように人間の方はバッタリと途絶えました。
人間の失踪にも波はあるのですが、猫ほど明確ではありません。
人間にもさかりがあって、それが猫の時期とうまくズレていれば、わたしは幸せなのですが。



探偵事務所のあるK市の郊外にある神社です。
小さな神社で、その場所だけ高い木に囲まれています。
周りは葡萄畑で、孤立したように建っています。

この辺りに捜索中の猫がいると、わたしは判断しました。
飼い主の家から二キロ余り。
普段の猫の行動範囲を大きく逸脱していますが、地理的にみるとこの辺りも圏内に入ります。
家出から時間も経っていますから、周縁にいる可能性が大です。



わたしの勘は、外れてはいませんでした。
境内の社殿の左に、摂社とか末社とか呼ばれる社(やしろ)がありました。
そこを木陰から覗いていたら、ターゲットがいました。
クローズアップでお見せしますね。



長期の放浪で薄汚れていますが、間違いありません。
バッグの中の写真を出して確認しましたが、家出した猫です、
猫は一般に用心深い動物ですが、個体差もあります。
この猫は人に懐いていたそうですが、ここはテリトリーの遙か外です。
こちらも用心深く対応しなければなりません。
ひとまず猫から離れて、周囲を調査することにしました。



社殿の右にまわると、こちらにも似たような社がありました。
この社も、本殿の祭神に関係のある神や、元々その土地に祀られていた神が祀ってあるのでしょう。
わたしはこの三つの石像に魅入ってしまいました。
猫を発見した安心からか、心はすっかり石像の形や並びに囚われてしまいました。

何というか、とってもチャーミングな石像たちです。
左端、顔のようにも見える真ん中の石と、その上に載った細長い石。
親しみを感じてしまいます。
中央の社殿のような石像は、猫がいた場所にも同じものがありました。
赤い二本の柱が、特別な石像であることを示しています。

そして右端の石像。
三つの石が重ねられているだけですが、その重なりと傾き具合が、何ともいえません。
もちろん、三つの石の形と重なり方には意味があるのでしょうが、わたしにはそれを推し量る知識はありません。
ただボンヤリ見ているだけですが、石像には、妙に納得してしまう合理と美しさがあります。

わたしは仕事を忘れて、石像に思いを馳せました。
神社の境内以外にも、このような石像を多く見た記憶があります。
それは、道と道との交差する場所、辻です。
今は交差点と呼ばれていますが、その昔は辻といわれた場所です。



辻に建つ石像。
場所は忘れました。
二年ほど前に、仕事か個人的な探索の最中に撮影した画像です。
隣りの電柱が邪魔ですが、姿形の整った石像です。
これはどことなく人型ですが、この地方では円い石(単数、複数あり)が多く見られます。
道祖神と呼ばれる、村落の守り神です。

探偵物語(63)に続く