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探偵物語(42)


電話は、九州の探偵事務所からでした。
探偵事務所には同業者のネットワークがあり、部分的な調査を依頼されることがあります。
九州の調査の本筋は人探しで、わたしへの依頼は、K市の隣村に住んでいる(はずの)関係者への聞き取りです。
しかし住んでいたのが確認できたのは、三十年前。
果たして見つかるかどうか、不確かです。

依頼人は九州在住の八十を超えた老人で、探しているのは終戦直後に世話になった元軍人。
わたしが聞き取りを依頼された関係者というのは、元軍人の戦友です。
老人の記憶では、とても仲が良かったとのことで、この人なら元軍人の去就を知っているかもしれないとのこと。
詳しいことは不明ですが、三十年前に老人はこの戦友の家に行ったことがあるそうです。
しかし、元軍人も戦友も生きているかどうか、これも不確かです。

三十年前の住所を基に、現在の住所を調べ、現地に赴きました。
村は町となっていて、県でも有数の賑やかな地域に変貌していました。



クルマを駐車場に預け、わたしは徒歩で関係者の家に向かいました。
この地域のランドマークは大きなスーパーマーケットで、広大な駐車場が付属しています。
その角にあたる交差点で、わたしはスーパー方面に渡ろうとしました。
歩行者の信号は赤。
何気なしに振り返ると赤、ピンク、白の大振りの花が傍若無人な感じで咲いています。
嫌な、予感です。

辺りを見回しながら信号が変わるのを待っていましたが、一向に青にならない。
不審に思って信号機の下の方を見ると、ボタンを押して下さいとの小さな標識が。
ここは横断歩道ではないし、比較的大きな交差点。
しかも、今は真っ昼間。
道には、立派な歩道が付いている。
それで、押しボタン?

フザケた信号機ですが、そう叫んだところで信号が青になるわけでもありません。
仕方なく、ボタンを押しました。



その日、特に体調が悪かったわけではありませんでしたが、日頃にないミスをしてしまいました。
目的地とは反対の方向に歩を進めてしまったのです。
上のショットは、(本来向かうべきスーパーマーケットとは)反対側に進んで振り返って撮ったものです。
まァ、ここで気が付いたというわけですが、誰も歩いていませんね。
クルマは結構走っていました。
走っていない僅かな隙に撮ったのですが、何となく落ち着かない町です。
初夏の白っぽい陽の光がそれに輪をかけているのかどうか、落着きを保てません。

同じ道を引き返すのも癪で、左折して一本左の道から戻ることにしました。
その道は歩道もなく、両側には畑や空地もあって、ここが新興の地であることを示していました。
今は仕事中ですが、プライベートな撮影を試みてみました。
そういう、光景があったからです。



ブロック積みの上にフェンス、外灯と電線。
白っぽい陽光が、レンズを向けさせたのかもしれません。
フェンスの向こう側が何であるか。
それには関心がありませんでした。

しばらく歩くと、学校らしき建物が見えてきました。
高校のようです。
一度フェンスに目が行くと、つい又目がいってしまうのがわたしの癖。
しかも、グリーンのメッシュ付き。
これを逃して通過することは、できません。



わたしが見ていたのは、グリーンのメッシュ越しの風景です。
そこだけが、リアルな景色に見えたのです。
後は、白い光に鈍く反射する町の光景。
落ち着かない、町の光景です。

探偵物語(43)に続く