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探偵物語(31)


前回の続きです。

光は、地上のすべてに平等に降り注いでいます。
寒い空から注がれる光ですが、僅かに熱があります。
冷気の中で、無機物の建物の色彩にホンの少し温度を与えています。

街は静かです。
正月の二日ですから、人通りがほとんどありません。
街に正月らしさは皆無で、普段と変わらない様子です。
時折、量販店やスーパーや娯楽施設を目指すクルマが走っていきます。
一帯を歩いていると、あたかも美術館の中の静けさにいるようです。

寂れた街の建物は、工場や倉庫が主で、その少なからずは廃業しています。
空地も方々に目立ちます。
民家もありますが、多くは塊になっていて、島のように点在しています。



この倉庫は、正月休みのようです。
手前の駐車場は、巨大な複合娯楽施設(カラオケ、ボーリング、レストラン)のものです。
焼けた青い波板トタンが、色をほんの少し膨張させて、周囲から浮かんでいます。
庇(ひさし)が作る微かな影が、光の存在を示しています。

わたしは若い頃から、工業色とでもよぶ、グレー系の色が好きでした。
薄い灰色に、極く少量の青や赤や黄、緑を混ぜた色です。
通学や通勤で利用したJRの車両の内装も、大概そのような色でした。
車内の読書に飽きると、電車の壁面をわけもなく眺めたこともありました。
どうしてそんな色に惹かれたのか不明ですが、その嗜好は今も続いているようです。



この門扉や建物も、そんな色です。
向こうに見える薄いピンクの建物や、その手前の建物も、そんな色です。
晴天であれば輝いている、パイロンやビニールシートの原色も、曇天の下では控え目なアクセントに過ぎません。

街を徘徊していると、妙に心が落ち着くときがあります。
平日の昼下がりの、人通りのない住宅街。
その緩んだ空気と時間の流れは、街中の喧騒と苛立ちが嘘のようです。
違う世界に下り立ったような、錯覚に陥ります。

今、曇天の街は、静かに沈んでいます。
画家が細心の注意を払って描いたような色彩に、わたしは魅了されています。
カメラを構えてシャッターを押しても、その空気と色彩が、果たして写っているでしょうか。
自信がありません。

人がそうであるように、街の表情も多くの面を持っています。
天候や季節で、街は表情を変えます。
経済でも、街は姿は変わっていきます。
その変化が、わたしの足が街に向かう理由の一つです。