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探偵物語(23)


弁護士との待ち合せは、午後一時でした。
場所はK刑務所の正門前。
民事の係争で、弁護士から調査依頼があり、K市の刑務所に服役中の男と面会です。
男は傷害で懲役三年の実刑判決を言い渡され、昨年春から服役しています。

わたしがK刑務所に行くのは初めてです。
K市の南側の外れに刑務所があるのは知っていましたが、用向きもなかったので、訪れたことがありません。
事前にGoogle Earthの航空地図で調べると、その場所には学校か工場のようなものが建っています。
ズームしてみると、監視塔が確認されたので、そこが刑務所と分かりました。

以前から刑務所の建造物には興味があったので、わたしは待ち合せの一時間前に行って、周りを撮影することにしました。
もちろん、中(なか)も撮ってみたいのですが、恐らくダメでしょう。



当日は秋晴れの好天で、散策がてら撮影を開始しました。
適当な所にクルマを停めて、正門の反対側と思しき場所から歩き始めると、塀が見えてきました。
上の画像は角の監視塔で、無人ですが、(当然)上部には監視カメラが取り付けられています。
モニタールームの画面には、今頃、カメラを構えた怪しい中年男が映っているはずです。

塀は高いのですが、さほど威圧感がありません。
監視塔さえなければ、工場と間違えそうです。
以前、K刑務所はK市の市中にありました。
大学入学で上京するまでK市在住だったわたしは、その前をよく通りました。
塀はもっと分厚感じで、高さもあったような気がします。
塀の上端にはガラスの小さな破片が天を向いていて、脱走に備えていました。

その刑務所は随分前に建てられたもので、レンガ造りの門があって、塀の色も年月で黒ずんでいました。
刑務所というより、監獄と呼んだ方が相応しい建物でした。
道を挟んだ反対側には、刑務所に勤める人の官舎が並んでいて、当時のことですからすべて一戸建てでした。
官舎には庭が付いていて、多くは野菜を栽培していたのを、良く憶えています。



監視塔に近づいて塀を撮影してみました。
塀というより、壁と形容した方がシックリ来るような造作ですね。
しかし、存在感のある壁です。

刑務所の外観を撮ることは、すなわちほとんどが壁(塀)を撮ることで、中の建物はホンの少ししか写りません。
それでも、まったく飽きません。
ある写真家は、無作為に日常を撮っていたら壁の写真が異様に多く、それから意識的に壁を撮るようになったそうです。
その気持ちが分かります。
わたしも、被写体としての壁が好きです。



壁(塀)の、アップです。
これだけ見ていると、刑務所の壁(塀)に見えませんね。
光線の所為か、南欧風の住宅の壁(塀)のようです。
でも、中側の人には決して見れない風景です。
ここを出る時、ふと振り返って見ることの出来る風景です。

次回に続きます。