立原真理子展
ーくさまくらー
TACHIHARA Mariko
立原真理子展の展示風景です。
立原真理子展は画廊中央に設置された立体作品1点、左壁面にドローイング1点、右壁面にドローイング1点、入口横壁面に刺繍作品2点の展示で構成されています。
その他にも、小展示室に2点、事務室壁面にも1点の展示があります。
作品の詳細を御覧下さい。
画廊入口から見て、左側の壁面の作品です。
タイトル「みずうみ」(透明水彩、紙)でサイズ317×410mmです。
右側の壁面の作品です。
「道すがら」(透明水彩、紙)で415×530mmです。
入口横の壁面、左端、右端の作品です。
左は「未知と既視」(刺繍糸、蚊帳生地、フレーム)で365×440×30mm、
右は「浄火のまえ」(刺繍糸、蚊帳生地、フレーム)で272×220×30mmです。
中央の立体作品(刺繍糸、蚊帳)はサイズ可変で、蚊帳には以下のような刺繍が蚊帳に施されています。
〈作家コメント〉まぶたの裏にいくつもの風景がうちよせる
此処か其処かとゆめうつつ
これがしるしかと探り辿れば
ただ何もなく、青ばかりが冴える
立原さんの本展は今までとは異なり、地理的にも意識的にも遠い場所を巡る旅をモチーフにしています。
展覧会タイトルのーくさまくらーとは、草を枕とする=旅であり、夏目漱石の小説『草枕』にも係わっています。
『草枕』は漱石の芸術論、美術論をテーマにした小説で、熊本の温泉への旅がストーリーの中心になっています。
立原さんの場合は日本各地(安芸の宮島など)とベトナムへの旅が創作動機になっています。
展示の核になっているのは、蚊帳に刺繍を施した「くさまくら」で、形式を立体と記しましたが正確ではありません。
空間を念頭に制作した作品ですが、インスタレーションとも名付け難い様式です。
この「くさまくら」と他の作品との関係はインスタレーションに近く、画廊に一つの空間を提示していることは確かです。
蚊帳は白と水色の涼しげで優美なもので、そこに刺繍されているのは神社の鳥居や真榊(五色絹の幟)や榊(さかき)、結界を表す綱や紙垂、日本の山並み、ベトナムの水路や街並みや多くの店が商っている造花の束などなど。
それは旅の記録であり、美術家が採取して蚊帳の網目に織り込んだ風景の断片です。
それはどこか聖なるもの、日常とは隔てられた場所を想像させますが、特定の教えや徴(しるし)ではありません。
立原さんの感性に触れた、場所やモノやその地の空気です。
この作品や画廊全体のインスタレーションを見たとき、わたしが気になったのは蚊帳の中の何もない空間です。
蚊帳の半透明な生地と風景の刺繍に囲まれた、何もない空間。
もしかしたら、この空間こそが作品のテーマではないか。
単なる憶測かもしれませんが、見えないものを現すのが美術だとすれば、この作品ほど美術的なものはありません。
神道やそこから発した新興宗教には、絶対的な場所があります。
宗派によっては厳密な緯度経度を記した聖なる場所もあります。
しかし、そこには何もありません。
御神体とよべるものはなくて、ただ空いた間があるだけ。
何もないが、世界の理を説くのはその場所であり、世界はその場所を中心に構成される。
それはあたかも数学における0(ゼロ、零)と同じで、実体がないがゆえに、実体(1,2,3・・・)を説明する数字の理です。
その何もない空間こそ、おそらくは立原さんの拠り所であり、美術を始める(初める)場所のような気がします。
そして今、わたしたちもその何もない空間に、招待されているに違いありません。
ご高覧よろしくお願い致します。
会期
2020年1月6日(月)ー18日(土)
1/12(日)、1/13(月、祝)休廊
11:30amー7:00pm(最終日6:00pm)
会場案内