藍 画 廊



本橋大介展
MOTOHASHI Daisuke


本橋大介展の展示風景です。



画廊入口から見て、左側の壁面です。
左から、タイトル「雨」で、サイズ209(W)×97(H)mm、「鉄骨」で207×98です。



正面壁面です。
「花」で、215×98です。



右側の壁面です。
左から「北京の窓から」で194×97、「ザルツブルグの城から」で189×96です。



入口横の壁面です。
上が「日々のまる」で154×74.5です。
下は「日々のまる」の版木です。

以上の6点の展示で本橋大介展は構成されています。
作品はすべて水性木版・和紙です。



本橋さんの木版画は、前回個展同様その大きさに驚きますが、内容は相当変化しています。
前回は古今(未来)の意表を突いた組み合わせや、カラフルな図柄が目に付きました。
今回は題材を日常に向け、モノクロームの作品で構成しています。
上は「雨」と題された作品で、小さな一つの版をずらしながら大きな紙に刷っていく手法で制作されています。
東洋的な雰囲気のする作品で、木版の特徴をうまく活かしています。



同じく左壁面の「鉄骨」です。
手法は「雨」と同じです。
墨の濃度を変えて、線に変化をつけています。



正面壁面の「花」です。
このページの一番上の小さな画像が、「花」の部分です。
この作品は版木が2枚で、花の種類は約10です。



右壁面の「北京の窓から」です。
本橋さんは大学院を卒業した後、中国で二年間版画を勉強しています。
これはその時に見た風景を基にしているのでしょうか。
中央の空間を囲むように、建物群がグルッと一周している、実際にはあり得ない風景です。
この作品のある右壁面と入口横の壁面の作品は、版木をずらす手法ではなく、1枚の版木をそのまま刷っています。



右壁面の「ザルツブルグの城から」です。
これも捻った風景の作品で、雨の中、城から外を見物している人物群を、逆さまに描いています。



入口横壁面の「日々のまる」です。
上が刷られた作品で、下がその版木です。
この作品は前回の作品の延長線上にありますが、今回は1枚の版木で制作されています。



部分のクローズアップです。
これがペンなどで描かれたものでしたら、さほど驚かないのですが、何といっても木版です。
それこそ日々のまるの集積がこの作品で、長い月日を要して制作されています。
まるは一円玉の形で、まず版木に置いてそれをペンでなぞり、それから彫っていきます。
右の画像がその彫った版木ですが、技術の高さに驚きます。
紙と版木の、上下にシンメトリーの展示も面白いですね。


本橋さんの木版画、大きく変わりました。
ポップな雰囲気から、日常の何気ない風景やパターンに変わりました。
色彩もなくなって、モノトーンになりました。

しかし本質的な部分は継承しています。
まずは、版の特質を活かして図柄を繰り返すことです。
前回も書きましたが、テクノやミニマルミュージックと共通する繰り返しのリズムが、木版という古くからの技法と奇妙に合体して、オリジナリティあふれる表現になっています。
しかも今回はシンプルでモノトーンになった分、そのオリジナリティは増しています。

木版画を日本に伝えたのは中国ですが、その後日本では浮世絵という木版画が花開いています。
本橋さんの木版画は、中国に留学した所為か、(良い意味で)日本の木版画の概念を脱しています。
木版画の特徴を最大限に活かしながら、従来の木版画とは違う地平の作品です。

それは不自然(作為的)な構図の風景画や、まるの集積の作品にも表れています。
描くのではなく、刷るという行為の軌跡が木版画の妙です。
あるいは、版というものを媒介にして、間接的に描画する面白さが、木版画にあります。
それらが、作品によく表出されています。

絵画の作家が版画を制作すると、まず感じるのはその不自由さです。
色数が限定され、形や線も(技術がないと)思うように描けない。
誠に不自由な形式です。
しかし本橋さんの作品を見ていると、版画の自由さ、版画の可能性の大きさを感じます。
本質的でありながら、既成概念に囚われない、版画だからこその、作品世界に目が開かれます。

一見すると地味になった今回の展示。
薄茶の雁皮紙(和紙)に墨一色の版画。
あのポップな絵柄も楽しいものでしたが、内容は格段にスケールアップしています。
本橋さんの視点が明確に表現されています。
そして木版画の味わいが十二分に発揮されています。

ご高覧よろしくお願い致します。

2009年藍画廊個展

 

会期

2010年10月18日(月)-10月23日(土)

11:30am-7:00pm(最終日6:00pm)


会場案内