藍 画 廊



カナイサワコ展
-Twinkle Drops and Tiny Fragments of Decay-
KANAI Sawako


カナイサワコ展の展示風景です。



カナイサワコ展はインスタレーションで、展示室はおおよそ6つのゾーンに分かれています。
ゾーンごとに展示をご覧下さい。



画廊入口から見て、左壁面前に天井から吊られている作品です。
作品タイトル「Floating Water Weed」で、作品サイズ210(H)×10(W)×10(D)cm、ビー玉・FRP・ガラスビーズ・テグス・油土を使用しています。
Water Weedは水草、藻の意です。



正面壁面前に展示された「Fossilzed Drops」で253×60×60、紙粘土を使用しています。
Fossilzed Dropsを訳すると、化石化した雫といった意味になるでしょうか。
床に置かれているのは「Fragment」という小品群です。
展覧会タイトルの「〜Tiny Fragments of Decay」は、腐海の小さな断片と訳せますが、「Fragment」とは小さな立体(彫刻)に付けられたタイトルです。



左壁面と正面壁面の角に展示された「Fragment ( cobweb )」で、サイズは可変、ミクストメディアを使用しています。
「Fragment ( cobweb )」は連作で、事務室壁面にも展示されています。
上の画像、床置きの作品はお分かりと思いますが、壁に設置されたcobweb(クモの巣状のもの)は透明な糸を使用していますので、この画像ではほとんど見えません。



右壁面に設置された「Fragment」と、床の「Fragment in the shell #1」。
「Fragment in the shell #1」は20×19×23で、FRP・砂・ガラスビーズ・大理石を使用しています。



右壁面前に設置された「a Mound of Mineral Wool」、115×105×64でラビットファー・FRPを使用しています。
a Mound of Mineral Woolとは、鉱物の毛の塚の意で、実在する「動物の毛皮のような質感を持つ鉱物」をモチーフにしています。
ラビットファーはウサギの毛皮で、その上にFRPが流れるような形で成形されています。
「a Mound of Mineral Wool」の周りに置かれているのは「Fragment」です。



入口横壁面前に設置された「Fragment in the shell #2」で、15×13×13、FRP・砂・ガラスビーズ・大理石を使用使用しています。
以上が展示室の展示で、その他小展示室の棚に多数の「Fragment」とドローイングが1点、事務室壁面にも「Fragment」が展示されています。

カナイさんの前回の展覧会は、アニメ『風の谷のナウシカ』の腐海にインスパイアされた作品でした。
今回も腐海の世界がテーマになっています。
腐海とは瘴気(有毒ガス)が充満し、巨大な菌類・苔類・シダ類からなる森で、蟲と呼ばれる巨大な節足動物が多数棲んでいます。



正面壁面前の「Fossilzed Drops」の部分です。
紙粘土で作られた無数の玉が天井から吊るされていますが、「化石化した雫」とは言い得て妙です。
カナイさんの作品の不思議な時間感覚と物質感が的確に表れた作品。



右壁面前の「Fragment in the shell #1」です。
shell(殻)に入ったFragmentです。
このFragment、キノコに似ていますね。




右壁面前の「a Mound of Mineral Wool」と周りのFragment。
いろいろな形、色、大きさのFragmentがファンタジーな舞台を作り出しています。



これもFragmentですが、小展示室の棚に展示されています。
このFragmentも含め、全体で115点のFragmentが展示されています。


図鑑というものがあります。
絵や写真でその事物の実際の形を示し、解説を加えた書物です。
その図鑑を愛好する人がいます。
(わたしの想像では)カナイさんは図鑑愛好家です。

カナイさんが図鑑で好きなのは、区分けが曖昧な生物、植物や鉱物です。
生物なのか無機物なのか、あるいは、その両方を含んだような事物にも惹かれるようです。
その嗜好が先だったのか、それとも腐海という空間に出会ったのが先だったのか。
それは分りませんが、カナイさんの作品は腐海の図鑑とも呼べる作品です。

腐海ではいかなる菌類も単独では存在しないそうです。
互いに共生、寄生しあって複雑な生態系を構成しているとされています。
カナイ作品の連続性というか、区切りの無さは、そのことと関係がありそうです。
画廊の入口から事務室の中まで、作品は繁殖して、共生、寄生しています。

制作について、カナイさんにお話を訊いていると、前述したファンタジーという言葉が出てきました。
ファンタジーの舞台を作りたい。
そうカナイさんが言って、そう思ってみれば、画廊空間(事務室までも)ファンタジーの世界でした。
ファンタジーとは空想、幻想のことです。
しかし舞台の基になっているのは、あの腐海です。
月並みなファンタジーの世界とは、まったく異なります。

腐海は有毒ガスの充満した森、樹海ですが、文明の果てに生まれた一種の浄化装置です。
その矛盾した存在の上に生まれた光のファンタジーが、カナイさんのファンタジーです。
それはウソっぽくもあって、リアルです。
科学のようで、幻想です。
その舞台を、是非探検してみて下さい!

ご高覧よろしくお願いいたします。

2008年藍画廊個展



会期

2009年11月2日(月)-11月7日(土)

11:30am-7:00pm(最終日6:00pm)


会場案内