藍 画 廊



カナイサワコ
"Cell in the Sea of Decay"
KANAI Sawako


カナイサワコ"Cell in the Sea of Decay"の展示風景です。



画廊入口から見て、右側と入口横右の壁面方向です。
左の床置き立体は、作品タイトル「S.M#4 Sedimentary photon Structure」で、作品サイズ50×50×210cm、
入口横右壁面の作品は「S.M#7 Liquid dust Spawn」で、31×24×4cm、
天井から吊り下げられた立体は、「S.M#2 Snow insect Sporangium」で、40×40×60cmです。



左の壁面方向です。
左壁面の作品は、「S.M#5 Floral Twinkle drop」で、30×30×7cm、
床に設置された立体は、「S.M#6 Rain mashroom Fossil」で、85×100×55cmです。

以上の五点が画廊内の展示で、その他道路側ウィンドウに一点の展示があります。



左壁面の「S.M#5 Floral Twinkle drop」です。
ブロンズ・グラスビーズを使用しています。
タイトルの「S.M」とは粘菌のことで、「 Floral Twinkle drop」は形状の印象から名付けられています。
「花のような、キラキラとした、しずく、滴り」とでも訳せるでしょうか。
近づいて見ると、グラスビーズがとても美しい作品。



左壁面の床に設置された「S.M#6 Rain mashroom Fossil」です。
FRP・アルミを使用しています。
「雨、キノコ、化石」ですが、アニメーションに出てきそうな虫も想像させます。
多くの足で、ちょっとユーモラスな動きを見せる、想像上の虫を思い出させる作品です。



正面と右側の壁面の間に設置された「S.M#4 Sedimentary photon Structure」です。
真鍮・クラッシュドガラス・FRP・抵抗線・ホットボンドを使用しています。
photonは光子ですが、なるほど、頂上の円の部分から光が後に放たれている光子の図に似ていますね。
真鍮の輝きと、頂上の王冠のような部分、下のクラッシュドガラスの対比に目が行きます。




入口横右壁面の「S.M#7 Liquid dust Spawn」です。
ガラス・ビー玉・FRPを使用しています。
この作品の見え方はとても面白く、興味深いものがあります。
画像で暗く見える部分はビー玉で、画像と逆に、実際には透明で明るく見えます。
カナイさんの作品は物語性が強いのですが、その物語の入口にあってわたしたちを導いているような、妖しい魅力に満ちたビー玉の輝きです。



画廊の天井から吊り下げられた「S.M#2 Snow insect Sporangium」です。
楠・フェイクファー・ナイロン糸・毛糸を使用しています。
insectは昆虫、Sporangiumは胞子嚢です。
カナイさんの世界、世界観が最も顕著に出ている作品かもしれません。



本展のタイトルは"Cell in the Sea of Decay"です。
このSea of Decayは、アニメ『風の中のナウシカ』の腐海のことだそうです。
腐海とは瘴気(有毒ガス)が充満し、巨大な菌類・苔類・シダ類からなる森で、蟲と呼ばれる巨大な節足動物が多数棲んでいます。
粘菌も『風の中のナウシカ』に出てくる言葉で、変形菌とも呼ばれ、動物性と植物性を持ち合わせる特異な生物です。

腐海と粘菌はカナイ作品のキーワードですが、わたしが遠い昔に見た『風の中のナウシカ』の詳細は思い出せません。
思い出せなくても、『風の中のナウシカ』を知らなくても、作品の観賞には差し支えありません。
『風の中のナウシカ』にインスパイアされたカナイ作品ですが、単独でも充分に楽しめるからです。

カナイさんの作品は、西洋彫刻、近代彫刻の対極にあります。
ギリシャ文明に端を発する西洋彫刻は、鍛えられた男性の肉体や、優美な女性の身体に美の基準を置きました。
近代彫刻における精神はヒューマニズム、人間中心主義です。
何れも、明るい太陽の下で花開いた芸術と芸術思想です。

カナイさんの作品は、暗黒の森に蠢く菌類・苔類・シダ類や蟲、鉱物がモチーフになっています。
光の世界に対比させれば、闇の世界と言えるかも知れません。
しかし、カナイさんの(闇の)世界に身を置いてみると、そこには根源的な生命のようなものが見られます。
人間を超えた、世界や生命のダイナミズムが感じ取れます。

わたしは再び、壁面に飾られた「S.M#7 Liquid dust Spawn」に魅せられています。
アメーバーのような、オタマジャクシのような、不思議な形状。
卵のようなビー玉の輝き。
それに吸い込まれるようにして、カナイワールドに入っていきます。

ご高覧よろしくお願い致します。




会期

2008年9月22日(月)-9月27日(土)


11:30am-7:00pm(最終日6:00pm)


会場案内