藍 画 廊



川口美穂展
ー雪と雷ー
KAWAGUCHI Miho


川口美穂展の展示風景です。



画廊入口から見て、正面と右側の壁面です。
左から、作品タイトル「落雷/ドローイング」(ボール紙・オイルバー)で、作品サイズF12、
「稲妻に打たれた人 」(キャンバス・油彩)でF12、「雪と雷」(キャンバス・油彩)でF8、「幽霊画」(水彩紙・鉛筆)で374(H)×298(W)mm、「雪」で(水彩紙・鉛筆)で425×390mmです。



入口横右の壁面です。
左から「スリープ前」(パネル・オイルバー・ダーマトグラフ)で607×412mm、「彼岸花/紺」(キャンバス・油彩)でSM、「彼岸花/黒」(キャンバス・アクリル絵の具)でSMです。



左の壁面です。
左から「落雷」(キャンバス・油彩・マジック)でF100、「上向き雷/下向き雷」(苔・スノーパウダー・針金)で不定形です。

以上の十点が画廊内の展示で、その他道路側ウィンドウに一点、芳名帳スペースに一点の展示があります。



左壁面の 「落雷」です。
夕方の空の、落雷の瞬間を描写した作品です。
しかし雷が完全に落ちたのかどうか、不明です。
落ちる寸前の所で、どういうわけか、雷が途切れているようにも見えます。
何となく座りが悪いのですが、その座りの悪さを、じっくりと味わって下さい。


 
 


同じく左壁面の「上向き雷/下向き雷」です。
対の作品で、一点は壁面の上方にあり、もう一点は床に置かれています。
雷の放電の向きから考えると、下向き雷が壁面で、上向き雷が床になると思います。
「落雷」の平面の隣りにあるので、一瞬虚をつかれたような感覚に陥ります。
稲妻が次元を超えて呼応している様子が、何とも言えません。



正面壁面左端の 「落雷/ドローイング」です。
ボール紙が中央で千切れていて、その隙間が落雷になっています。



ご覧の通りの、「稲妻に打たれた人 」です。
インパクトのある絵ですが、描かれた人物のモデルは、奇想住宅「二笑亭」を1931年頃に建てた深川の地主渡辺金蔵さんだそうです。
渡辺金蔵さんと稲妻の組合わせは、川口さんの創作で、渡辺金蔵さんが稲妻に打たれた史実は特にありません。



展覧会タイトルと同名の「雪と雷」です。
雪景色の遠い空に稲妻が見えます。
画面を横切っている薄い黄色や青の部分は、ガラス窓に付着した雪で、車中からの眺めであることを示しています。



右側壁面左の「幽霊画」です。
他の作品との絡みで雪女を想像しがちですが、そうではないようです。
幽霊の画です。



入口横右壁面の「スリープ前」です、
部屋にある冷蔵庫の向うにガラスがあって、そのガラス越しにボンヤリ見えるパソコンのモニターの光を描写した作品。
マンガで使われるような星印の輝きが、効果的です。



川口美穂さんの「雪と雷」。
素敵な展覧会タイトルですが、一筋縄ではいかない作品の展示に見えます。
しかし、奇をてらっているわけではありません。
逆に、とても素直な印象を受けました。

川口さんの作品には、美術の常識では不可解と思われるものがあります。
ですが、その不可解さを解きほぐすと、そこに親しみ深い表情が表れてきます。
ヒネッたように見える作品も、趣向を凝らしているわけではありません。
もしヒネッているとしたら、ヒネられたものを元に戻しているだけです。
そのものの本来に戻すような、素直で真っ直ぐな(?)ヒネリです。

現代美術とハイテクには何の関係もありませんが、川口さんの手法は限りなくローテクでプリミティヴです。
この時代にこの絵画で、しかも絵画は高度な技を忌避しているようなふしがあります。
どうしてでしょうか。
それはやはり、何かを取り戻す為にそうしているのです。
わたしには、そう思えます。

では何を取り戻そうとしているのか。
わたしの想像では、自分自身への信頼です。
これは川口さんの問題というより、現代に生きるわたしたちの問題です。
わたしたちはいつの間にか、自分自身を信じることができなくなってしまったのです。

たとえば、わたしたちの認識や、わたしたちの喜怒哀楽は、本当にわたしたちのものでしょうか。
本当にわたしたちのものと言い切れるでしょうか。
わたしたちの感動や共感が、どこかで作られたような気がするのは、単に考えすぎでしょうか。
わたしの感覚や思考は、疑いなくわたし自身のものなのでしょうか。

わたしがそのように勝手に想像してしまったのは、川口さんの作品が、あまりにも素直に響いてくるからです。
自分自身への信頼を取り戻すリハビリであるかのように、作品がスウッと心に届くからです。
一見感動という言葉が似合わない作品のようでいて、わたしは感動してしまいました。
それは誰のものでもない、わたしの感動です。

ご高覧よろしくお願い致します。

2007年藍画廊個展



会期

2008年11月17日(月)-11月22日(土)


11:30am-7:00pm(最終日6:00pm)


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