藍 画 廊



上野茂都展
UENO Shigeto


上野茂都展の展示風景です。



画廊の床に置かれたのは、六十五点の色とりどりの小さな彫刻です。
彫刻の素材は石鹸です。




画廊の中に入ると、石鹸特有の芳香が漂っています。
なぜ、石鹸?
上野さんに伺うと、特別な理由はないそうです。
石や鉄を彫刻の素材に使うように、石鹸を使用したそうです。



最初は白色の石鹸を使用していましたが、色の石鹸を使ってみたら配色が面白かったので、徐々に色の作品が増えました。
石鹸は主に商店街の雑貨屋、スーパー、薬局、百円ショップで調達しました。
特に百円ショップはチェーンで品揃えが異なるので、いろんな店舗で購いました。



彫刻で表されているものは、多種多様です。
人間、菩薩、建物、猫、鳥、魚、亀、布団、その他の物体です。
今までの上野さんの作品の、オールスターです。

しかしいろんな色の石鹸があるものですね。
色合いも独特で、昔懐かしいというか、家内工業の仕事場を想像させます。
今の洗練された着色、染色に比べると、チープで人工的ですが、それも一つの味わいになっています。



わたしのお気に入りは、画像の左上、青い物体の上に緑の鳥が乗っている作品です。
とても、チャーミング。

とてもチャーミングですが、その作品には上野さんの世界観が現われています。
それを少し考察してみます。

上野さんの世界観の中に人間はいますが、中心にはいません。
近代芸術、美術の中心は人間です。
「人間の崇高な精神」が世界の中心であり、それが近代芸術、美術を支えています。
その意味では、近代芸術、美術の対極にあるといえます。

それでは、西欧近代以前の神の視点かといえば、それとも違います。
「神の崇高な創造」も、ここにはありません。

では、画廊の床にある世界とは、どのような世界なのでしょうか。
当たり前、の世界です。
当たり前が、当たり前にある世界です。

当たり前の世界では、人間だけがスターではなくて、鳥や魚や猫や亀や石ころや搭もスターです。
みんなスターで、オールスターで世界は成り立っています。
これはとっても重要なことです。

これと似たような思想に、ヒューマニズムがあります。
似てますが、内実は全然違います。
ヒューマニズムとは「人間の崇高な精神」を基にしたもので、実は人間だけがスターなのです。
上野さんの世界は、オールスター。

わたし達の間には常識というものがあって、そこから物事を考えます。
人間だけがスターというのも、確固な常識の一つです。
それ以前の西欧では、一つの神様だけがスターでした。

しかし、日本の近代以前はオールスターが色濃く残った世界でした。
それが、当たり前の常識でした。
同じ常識でも、随分と違いますね。

どっちの常識が良いかをここで簡単に述べることは出来ませんが、オールスターの方が気が安まります。
上野さんの作品を見ていると、そう思います。
人間だけがスターの世界は、どうしても疲れます。
きっと、どこかに無理があるからでしょうね。

画廊内の作品の他、道路側ウィンドウにも三点の展示があります。


これも石鹸の作品ですが、モノトーンで統一されています。
清々しい人物像で、一見同じように見えますが、夫々には個性があります。
個性があっても、そこに序列やヒエラルキー(階層)は窺えません。
やはり、オールスターなのです。


ご高覧よろしくお願いいたします。

2005年藍画廊個展


会期

2006年3月20日(月)-3月25日(土)


11:30am-7:00pm(最終日6:00pm)


会場案内