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『TVドラマ/ハゲタカ』


普段TVドラマは見ないわたしですが、正月に遊びに来た友人からドラマのDVDセットを借りました。
昨年NHKで放映された、土曜ドラマ『ハゲタカ』全編です。
DVD三枚組、全六話で収録時間は約六時間。
休みを利用して一気に観賞しました。

制作陣の意欲と俳優の熱気が伝わってくる、力作ドラマでした。
経済小説が原作で、投資ファンドの企業買収、売却と銀行との攻防、企業の経営再建、IT企業の戦略などが絡むストーリーです。
ドラマの企業や銀行は(つい最近の事件の)現実のモデルを連想させ、ドラマ展開のダイナミズムと相まって、視聴を飽きさせません。

見終わると(ドラマを見たという)満足感と若干の物足りなさが残り、その正体を考えてみました。
満足感を生みだしているのは、俳優陣の演技です。
そして、それを導いたキャスティング(配役)です。
何といっても、主演の大森南朋(おおもりなお)が良いです。
この地味な役者を、主役に抜擢したキャスティングが、ドラマの成功に最も貢献しています。



テレビドラマは、日常と共にある物語です。
視聴場所が居室という日常で、そこから大きく離れることはありません。
日常に寄り添うことで、視聴者の共感を呼びます。
反対に、映画は映画館という非日常で、非日常のドラマを楽しみます。

テレビドラマは日常的ですが、主役は日常ではありません。
主役は、スター(非日常)です。
もし日常的な俳優を配したのなら、それは日常そのままで、面白くも何ともありません。
スターが主役だからこそ、日常が輝くのです。
日常的な俳優は脇にまわって、日常の土台を作る。
それが、王道だと思います。

ところが、大森南朋は日常的俳優。
何処にでもいる風貌の方です。
しかし、その風貌の内側には光があります。
物語を照らし出す、光を秘めています。
それに着目して主役に抜擢したのは、制作陣の英断です。

俳優にさほど詳しい方ではありませんが、聞けば、大森南朋のお父さんは麿赤児とのこと。
麿さんは状況劇場の看板役者だった人で、わたしはファンでした。
圧倒的な存在感とセオリーの反対側から出てくるような演技が、魅力でした。
大森南朋は、あの麿さんの息子さん。
道理で・・・・。

『ハゲタカ』の主な俳優は四人です。
大森南朋の他は、松田龍平、柴田恭兵、栗山千明。
松田龍平は、いうまでもなく松田優作の息子さん。
テレビの松田優作はよく知りませんが、映画の松田優作はファンでした。
麿さんが状況を辞めて舞踏の世界で白塗りしていた頃、松田優作は銀幕のスターでした。

『ハゲタカ』の松田龍平は、老舗旅館の跡取りだった筈が投資ファンドに潰されて、後にIT企業の寵児になる役柄です。
あのホリエモンの役をやっています。
マンガ(劇画)みたいな話ですが、ストーリー自体が劇画そのものですから、致し方ありません。
功罪併せて、『ハゲタカ』は劇画的展開、劇画的業界(経済)の紹介に終始します。

ともあれ、『ハゲタカ』は松田龍平のナイーブさを上手く引き出した演出、演技です。
映画「NANA」のロッカーよりも、ずっと素敵な松田龍平です。
大森南朋も松田龍平も、お父さんとは違った方向で、優れた役者の道を進んでいますね。

柴田恭兵。
声の良い、喋り方の良い、役者さんです。
ひたすら自己を抑える役柄を、巧く演じています。
あの口許が、すべてを語っています。
柴田恭兵は、1970年代に一世を風靡した東京キットブラザースの出身です。
麿さんが舞踏で、松田優作が銀幕で活躍していた頃、アングラミュージカルで活躍していた役者さんです。



『ハゲタカ』は男のドラマです。
男の、罪と罰のドラマです。
紅一点は、栗山千明。
わたし的には、タランティーノ『キル・ビル』の「ゴーゴー・夕張」です。
あの漆黒の長髪と殺気を帯びた眼です。

ところが今回は、百八十度転回したテレビ局の記者、キャスター役。
髪を上げ、顔面を露出して、新たな役どころに挑戦しています。
これもキャスティングの勝利です。
意外性というより、栗山千明の素材の良さを見抜いた眼の勝利です。

『ハゲタカ』は男のドラマで、その緊張感は、喩えてみれば寒色系の緊張感です。
栗山千明が演じるのは、暖色系の緊張感です。
男三人と等距離にいて、暖色系の緊張感を醸し出している。
寒色の中に拡がる、栗山千明の暖色。
栗山千明は暖色ですが、姿勢が(心身共に)とても良い。
気質と、趣味のクラシックバレエの所為でしょうか。

脇役で目立つのは、危機に立つ企業の熟練工役の田中泯。
この人と麿さんの間柄は舞踏の世界で、説明の要がありません。
といったわけで、わたしとわたしの世代には、奇妙な糸で結ばれたテレビドラマ『ハゲタカ』です。

最後に若干の物足りなさを、書いてみます。
役者の熱では大成功のドラマですが、経済の描き方と映像には不満が残りました。
前述したように、経済の描き方が劇画的で、解りやすい分、深さに欠けます。
逆光やクローズアップを多用した映像も、ドラマティックに過ぎます。
もう少し、クールな映像があっても良かったのではないでしょうか。
距離を取った、クールな映像が。


連続ドラマを一気に見るという見方も、面白いものです。
もちろん王道は、毎回見るです。
でも、わたしのようにテレビドラマに興味のない人間にとっては有効な手段です。
その機会を与えてくれた、Kさん、有り難う。