早いもので、今年もすでに十二月。
流れるのは月日ばかり、とつい嘆息してしまう年末です。
今年は近年になく音楽を聴いた年でした。
といっても新譜と旧譜が同じくらいで、新譜も70年代〜80年代に活躍したアーティストが中心です。
完全に後ろ向きのリスニング、です。
そんな中で、印象に残った楽曲を幾つか挙げてみたいと思います。
2006年のマイベストです。
イギリスはマンチェスター出身のロックグループ、New Orderのシングル「Krafty」。
New Orderの前身Joy Divisionはパンクの流れを汲むバンドでした。
ボーカリストの死後、バンド名がNew Orderとなって、サウンドもデジタルビートに変身しました。
(その間のヒストリーは、映画「24 Hour Party People」に詳しく描かれています。かなり脚色されているようですが。)
「Krafty」はロックというより、ダンスチューンです。
New Orderもクラブやダンスフロアー方面が似合うバンドです。
何時ものようにシンセベースが効いた曲で、古いのか新しいのかサッパリ分からない曲です。
昔と少しも変わっていません。
でも良いんですよね、この曲。
覚えやすくて親しみやすいメロディーラインと、デジタルなビートが違和感なく融合しています。
(まァ、今どきデジタルなビートといっても何の価値もないですが、「これぞ」というデジタルなビートです。)
途中でシンドラ(シンセサイザードラム)らしき懐かしい音も入ってますが、これは計算でしょうね。
何時ものように、シングルジャケットも秀逸です。
(最近、日産のセレナのCFが「Krafty」を使ってますね。)
「Krafty」とRy Cooderのアルバム「Chavez Ravine」が今年のマイベストかと思っていたら、強力な新譜が出ました。
Madonnaの「Confessions On A Dance Floor」です。
邦訳すれば「ダンスフロアの告白」という意味深なタイトルですが、本意は良く分かりません。
ファーストシングルの「Hung Up」は、恋した(夢中になった)男の煮え切らない態度に待ちきれなくなる女の話です。
Hung Upは夢中の意で、焦れてしまう女の心理が巧みに描写されています。
このシングルで話題なのは、ABBAの「Gimme! Gimme! Gimme! 」のサンプリングです。
わたしはディスコに疎いので「Gimme! Gimme! Gimme! 」を知りませんが、曲の骨格になっているリフレインであることはすぐ分かります。
そこでABBAの「Gimme! Gimme! Gimme! 」を聴いてみました。
な〜るほど、80年代の「ジュリアナ東京」とか「ゴールド」の世界ですね。
(行ったことがないので、想像です。)
あのお立ち台と、揺れ動くダンスフロアが目に浮かんできました。
ABBAとMadonnaの間には二十年の月日が流れていて、二つの曲の間にもその差異は歴然とあります。
浮かれて踊る群衆と、ダンスフロアで孤立している女の差異が。
「Confessions On A Dance Floor」はノンストップのダンスチューンですが、現実のダンスフロアが舞台ではありません。
と言い切る自信もないのですが、わたしにはそう聴こえます。
現実ではなくて何処かいえば、繰り返しになりますが、現実ではない何処かです。
踊っている本人にも分からない、何処かです。
わたしはMadonnaの前々作「Music」を愛聴していますが、「Confessions On A Dance Floor」も良くできたアルバムです。
何よりもポップで、これぞ流行歌です。
あっ、流行歌を知らない?
そうか、流行歌は死語でしたね。
流行歌とは、「ある一時期に流布し、時代や社会の雰囲気などを反映させて、多くの人に好まれ歌われる歌謡」です。
「はやりうた」のことで、専ら歌謡曲の意に使われました。
子供の頃は、「流行歌ばっかり歌ってんじゃない!」とよく怒られたものでした。
流行歌は大人の歌でしたからね。
流行歌を英訳するとポップス、ポピュラーソングになります。
だからMadonnaは流行歌手(ポップシンガー)で、歌うのは流行歌(ポップソング)です。
ま、そんな講釈はどうでも良くて、要は「Confessions On A Dance Floor」が優れた流行歌であることです。
「Confessions On A Dance Floor」はABBAだけではなく、アラブ歌謡などもサンプリングしていますが、サウンドのベースはテクノです。
「Gimme! Gimme! Gimme! 」のリフレインも、イコライザーを操作して、時には極端な音に変形しています。
全編を通して、「Confessions On A Dance Floor」には深い所から響くような不安があります。
テクノとはもともと不安な音楽ですが、この流行歌の奏でる不安はリアリティがあります。
ダンスフロアの騒音の中で、足下から潜むように響いてくる不安です。
ここまで書いてきたら、New Orderの「Krafty」のポップさも、流行歌に思えてきました。
こちらは、往年の歌謡曲的ニュアンスの流行歌です。
(アイドルが歌ってもおかしくない、メロディラインですから。)
Ry Cooderのアルバムも、徃(いにしえ)のチカーノ歌謡のオンパレード。
今年のマイベストは、流行歌ってことですね。
自分自身で、納得。