東京都現代美術館の常設展示室の二階の階段脇に、小さな休憩スペースがあります。
その日は知人の展示を見て、一休みするために休憩スペースのイスに腰を下ろしました。
スペースの二面の上部はガラス張りになっていて、外の景色が見えます。
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窓にはストライプのパターンがプリントしてあって、景色に面白い変化をつけています。
思わず、持参していたカメラを取り出して、シャッターを押し続けました。
東京都現代美術館の場所は、東京の下町の木場。
色相の乏しい町並みには、中低層のビルが建ち並んでいます。
美術館は広い公園の端に建てられていて、その一角だけが町とは違う空気を放っています。
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わたしが生まれ育った都市には美術館はありませんでした。
わたしが初めて見た美術展は、駅前にオープンしたデパートで催された「岡本太郎展」でした。
記憶をたどってみると、初めて美術館に足を踏み入れてのは、中学生の時だったように思います。
上野の国立西洋美術館の、「ミロのビーナス展」です。
友達と上京して、どういうわけか、「ミロのビーナス」を見にいきました。
(上京の目的はレコードの購入で、美術館ではありませんでした。)
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休憩スペースの窓から広大な公園の一部が見えます。
美術館と公園。
大概の場合、この二つはワンセットになっています。
市民の憩いの場、ですね。
しかし、公園はともかく、美術館はどうして人が少ないのでしょうか。
市民が、少ないからでしょうか。
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美術館(博物館)の始まりは、ヨーロッパの王の権威の正統性を図るためだったようです。
それまでは教会が王の正統性を保証していました。
王は教会の束縛を嫌い、自らの権威を自らの力によって証明しようとしたのです。
こうして政治と宗教は分離し始め、近代の市民社会に繋がっていきます。
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映画「殺しのドレス」に美術館のシーンがあります。
(「殺しのドレス」はブライアン・デ・パルマ監督の初期の傑作です。)
男が女を追うシーンで、カメラがその二人を追って、展示室を滑るように動いていきます。
美術館の出口で追いついた男は女をタクシーに押し込み、濃厚なシーンに続きます。
聖なる場所での、淫らな追跡。
デ・パルマの狙いはそこにあり、美術館の前身が聖なる教会であったことを連想させます。
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陽が傾き、眩しい西日が街を染めています。
街は昼の活動的な時間を終え、夜の寛ぎへと変わり始めています。
もうしばらくすると、美術館も閉館時間です。
わたしはイスから腰を上げ、短い回想を終えて、地下の駐車場へと向かいました。