東京の杉並区といえば、JR中央線沿線の住宅地です。
もうそれこそ、住宅がビッチリ並んでいる地域です。
だいぶ前の話ですが、あるアメリカ人が中央線沿いの宅地風景を見て、「ここはスラムか」と同行の日本人に訊ねたという逸話があります。
(東京の人口密度からみれば、杉並区は突出しているわけではありませから、偶々見た沿線風景がアメリカの尺度では異常に密集していると感じたのでしょう。)
わたしがアパートを借りている西荻窪は杉並区の西にあって、やはり一戸建てや集合住宅が密集しています。
その杉並区で撮影したショットです。
昔の写真ではありません。
つい最近、アパートの近所で撮った写真です。
(ちょっと驚かせようと思って、モノクロームに変換してありますが。)
この農家はiGallery Weblogの「建物シリーズ」で紹介済みですが、今回はもう少し詳しい様子を載せてみます。
上の写真、知らないで見れば、東北の打ち捨てられた寒村の農家に見えますね。
それも、昭和の中期あたりの年代の風景。
冷害で困窮した家族が家を捨てて去った跡、に見えます。
この写真のメインの被写体はもちろん家ですが、地面にもご注目下さい。
何とも、昔の土の有り様です。
とても東京の二十三区の地面ではないですね。
樹木も野放図な感じで、寒村のイメージに一役かっています。
さて、現実に戻ります。
この農家(の跡)は、わたしのアパートの目と鼻の先にあります。
直線距離にすれば、50メートルあるかないか。
そんな近くにあったのに、わたしは25年余り気がつきませんでした。
その最大の理由は、この農家が狭いブロック(100m平方)の真ん中にあって、四方を家々と樹木に囲まれていたからです。
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ブロックを囲む道路の一つです。 西荻窪はこのような感じで、住宅が建ち並んでいます。 特にこの辺りは比較的低層の建物が多く、ほとんどは一戸建住宅か二階建のアパートです。 (バイクが路駐していますが、バイクへの放火が一時杉並で頻発しました。) |
上の画像の奥の道路脇に、黄色い工事用の柵があります。
白い家と立ち木の間です。
この工事中の柵の左奥に、あの農家があります。
(ちなみにわたしのアパートは、白い家の先を左に曲がって直ぐです。)
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かんりにんがよいこにひらがなでちゅういをよびかけていますが、ここは駐車場です。
駐車場ですが、期間限定のような作りで、そのうち集合住宅でも立ちそうな気配です。
(そうでなければ、工事中の柵などいらないはずです。)
奥に、農家が見えます。
その手前には蔵もありますね。
この駐車場部分に以前は家が建っていました。
それが目隠しになっていて、わたしが農家に気がつかなかった次第です。
蔵です。
窓の下に何か記してありますね。
読んでみましょう。
起立
大正十四年十二月
竣工
大正十五年三月
家主
E
請負師
吉村組
左官
橋本久米三
左官は住所と助手名も記してありますが、判読できません。
現在の蔵は見ての通り、とても大正年間の建築とは思えません。
多分、その後に改築されたものです。
問題は並んで建っている農家で、もしかしたらこの蔵と同じ大正の建物なのでしょうか。
では、もう一度農家に登場していただきます。
今度はオリジナルのカラー版ですが、やはりどう見ても現在の杉並の風景ではありません。
東京府下の井荻村だった時代の風景です。
この場所だけ、時間が止まっています。
杉並はもともと農村でしたが、戦後急速に住宅地になったところです。
農家が普通に点在していたのは戦前です。
蔵が竣工したのは大正末期でしたが、この農家の様式がいつ頃のものなのか分かりません。
いずれにしても、農家の様式を採った杉並の家ですから、戦後というのはちょっと考えられません。
少なくとも戦前のような気がします。
今は人が住んでいない農家ですが、いつ頃まで住んでいたのでしょうか。
わたしが西荻窪に越してきた当時、ひょっとしたらまだここで生活が営まれていたのかもしれません。
蔵と農家の家主であるEさんの家は、農家の裏にあります。
立派な門構えのご自宅です。
蔵の横にある黄土色の家の表札もEさんと同じ名字です。
又、農家の向こう側の雑木林の向こうには、Eさんの名字を冠したアパートが二棟建っています。
昔はこのブロック全体が、EさんかEさんの一族の地所だったと想像されます。
この農家の建築時期や土地の歴史はEさんに訊ねれば分かることですが、敢えてしませんでした。
訊ねる理由を説明するのが面倒ですし、謎のままの方が楽しいかもしれないと思ったからです。
農家を見ながら、杉並が農村だった時代に想像をめぐらせるだけで、わたしは充分です。
農家の三方には林があります。
林は区の保護樹林に指定されています。
最後は、林の画像ご覧いただきます。
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雑木林ですが、熱帯系とおぼしき樹木も混じっています。 あの農家と熱帯の樹木。 ミスマッチですが、これも一興です。 保護指定されているのは樹林だけではなく、農家も対象になっているのかもしれません。 (あるいは指定を検討中。) それで、あのような状態になっているのでしょうか。 |