雲一つない秋晴れの昼下がり。
ここは、わたしの住居(山梨)から歩いて五分ぐらいの住宅地です。
数年前までは畑だったところを造成してできた、新しい住宅地です。
左側が住宅地で、右側は数年前と変わらない柿や葡萄の畑です。
住宅地の住宅数はおおよそ三十軒。
住宅地内の私道に入ってみましょう。
日本の地方にいけば何処にでも見られる住宅地です。
以前だったら「ノンビリとした〜」と形容できる風景ですが、最近はこんな場所でも何が起こるか分りませんね。
さて、この住宅地の端の方に歩いていくと、妙な看板が見えてきました。
青い看板、「酒処 翠」と書いてありますね。
はて、こんなところに居酒屋があるのでしょうか。
看板のところまで行って、ビックリ。
角の家が居酒屋でした。
この家、普通の家ですよね。
「翠(すい)」という青いテントがなければ、完璧に普通の家です。
よく見れば玄関に白い看板も立っていますが、とても居酒屋の造りではありません。
(干してある布団が穏やかな家庭を思わせますね。)
わたしはこの家の前に立って想像力を働かせました。
この家の主(あるじ)は念願のマイホームを建てた。
建ててしばらくしてから、お店をやりたくなった。
多分、主は飲食関係の仕事に従事しているか、以前していた人でしょう。
物件を探したが、予算に合うものがなかった。
そこでコペルニクス的に発想を転換し、自宅で開業することにした。
自宅を物販や飲食の店にするのは、そう珍しいことではありません。
一時、隠れ家的なスノッブなレストランやクラブが流行ったこともありました。
そういう店の場合、看板は絶対に出しません。
知る人ぞ知る、という客の特権意識をくすぐる商法だからです。
又、自宅を店舗にする場合は改造ということが必要になります。
改造して、自宅兼店舗にしたところは結構あります。
しかしこの家の場合は看板を出しただけです。
もう、かなり唐突というか、英断というか・・・・。
わたしはこういう発想の人が好きです。
多分、竹を割ったような性格の人ではないでしょうか。
営業は夜からのようなので、暗くなるまで待つことにしました。
だって、どういう営業状態なのか見てみたいじゃないですか。
まだ大分時間がありますので、家の前の葡萄畑をお見せしましょう。
葡萄がたわわに実ってますね。
品種は甲州葡萄。
もうすぐ収穫です。
こういうロケーションで果たしてお客さんが来るのでしょうか。
他人事ながら心配です。
夜です。
暗くなりました。
家の前はどうなっているのでしょうか。
白い電気看板と軒下の電飾、左上の文字看板。
何となく、店らしいですね。
タヌキの置物もあります。
赤字に白く「ご家族」と出ている看板は、文字が右から左に流れます。
「ご家族、ご友人と連れ立ってお越し下さい〜」、といった具合に。
しかしこの文字看板、この家とは違和感がありますねぇ。
ジェニー・ホルツァーに見せたいです。
(註 ジェニー・ホルツァーはこういった文字の看板、サインを作品化しているアメリカの現代美術家。)
飲食店の宣伝文句に「家庭的な雰囲気」とか、「家庭的なサービス」があります。
この居酒屋、まさに「家庭的」です。
だって、家庭の中に店があるのですから。
日本一のアットホームな店です。