先週の日曜日、テレビ東京で「名曲ベストヒット歌謡」という番組が放映されました。
それは1960年代の歌謡曲の年代順ベスト5を紹介する番組でした。
昭和でいえば三十五年から四十四年までです。
ほぼ歌謡曲の黄金時代と重なります。
歌謡曲のマニアではありませんが、ファンであるわたしは、仕事の後の軽い疲れに身を任せて最後まで見てしまいました。
印象に残ったのは西田佐知子の映像です。
昭和三十五年の二位は、西田佐知子の「アカシヤの雨がやむとき」。
リアルタイムの映像がなくて、放映されたのは1969年の紅白歌合戦のビデオでした。
モノクロームの相当劣化した映像にも関わらず、改めて西田佐知子の歌唱と美貌を楽しみました。
わたしは「西田佐知子 全曲集」というCDを持っています。
全20曲、名曲ぞろいですが、中でも「くれないホテル」が好きでよく聴いています。
この歌の作曲は、かの筒見京平。
歌謡曲マニアの間では絶大な人気を誇る作曲家です。
その筒見京平が作曲した膨大な歌謡曲の中でも、名曲中の名曲といわれているのが「くれないホテル」。
確かに良い曲です。
緩やかなワルツの調べにのって、鼻にかかったハスキーな西田佐知子の歌声が、わたしを「くれないホテル」に誘います。
出口の見えない、「くれないホテル」とういうホテルへ。
「くれないホテル」。
深紅のベッドの、「くれないホテル」。
いつまでも悲しみが暮れない、「くれないホテル」。
曲はオシャレなバート・バカラックスタイルですが、歌詞は通俗的で、いかにもの歌謡曲。
でも、それで良いんですね。
万人がそれぞれの思いで心を共振できるのが歌謡曲ですから。
「くれないホテル」の窓には、青い空が拡がっています。
突き抜けるような青い空です。
でも、私にはその青が見えません。
「くれないホテル」は、深紅のベッドの他はモノクロームの世界です。
恋が終わって、未練が残って、後には何も残らない世界。
身を焦がした炎の残り火が、ベッドを深紅に染めているだけです。
「くれないホテル」は何処にあるのでしょうか。
「くれないホテル」は、海辺にヒッソリと佇んでいるのかもしれません。
あるいは、郊外の林の中にあるのかもしれません。
でも、「くれないホテル」は貴方だけしか泊まれないホテルです。
西田佐知子は関口宏と結婚して歌謡界を去りました。
西田佐知子のデビュー時の芸名は浪花(なにわ)けい子。
演歌の歌手のようですね。
(追記 西田佐知子ファンからのご指摘で、デビュー時は西田佐智子、それから浪花けい子になり西田佐知子になったそうです。)
実は西田佐知子は演歌も歌っていて、意外に良い味なんですよね。
「西田佐知子 全曲集」の中に「裏町酒場」という曲があります。
ド演歌ですが、西田佐知子の手にかかるとモダーンな色合いに変化して、そのブレンドぐあいが何ともいえません。
菊正宗のCMソングを吹き込み直した「初めての街で」はそのタイプの代表曲。
永遠に今の空気を吸っているような、「こぶし」です。
雨の小窓 くれないホテル。
その雨も何時しかやんで、そろそろチェックアウトの時間です。
「くれないホテル」は年中無休ですが、ロングスティは出来ません。
だってもう、貴方には外の青空が・・・・。