iPhoto



「iPhone's photo( 17)」


わたしがiGalleryを開設してから約10年になります。
正確な日付は忘れましたが、10年前の2月だった記憶があります。
しかしわたしの実感としては、10年どころではありません。
いわゆるドッグイヤーほどではないですが、10年より遠い昔のような気がします。

当時インターネットは普及し始めの時期で、パソコンの所有率も低いものでした。
ですから更新しても見ていただける人は少数派で、紙にプリントアウトして閲覧してもらうことも度々でした。
そういう時代から、今はインターネットに繋がっていることが前提で、話が始まります。
しかもイノベーションに行き止まりはなくて、次から次へと新しい試みが出てきます。
つい昨日もWebをブラウズしていたら、iPadなるニューカマーが・・・・。



iPadはiPhoneとノートブックの間を埋めるようなタブレット型デバイスで、マルチタッチディスプレイを特徴としています。
形状はフラットなパネルで、Appleらしいシンプルで美しいデザインをしています。
iPadはウェブブラウズ、メール、写真、ビデオ、音楽、ゲームなどが快適に楽しめるそうで、最大のポイントは電子書籍の購読にあると思われます。
そのためのアプリ「iBooks」が付属していて、iBookstoreから電子書籍を購入する仕組みになっています。

10年前から見れば、夢のようなマシン(デバイス)です。
Wi-Fi環境にあれば、これ一台で何でも出来てしまいます。
この10年の進化を省みれば、10年後が空恐ろしくなります。
わたしのような中途半端な人間は、今更アナログ人間にもなれないし、到底新しい時代にはついていけそうもありません。



さてこのiPadですが、購入の予定はまったくなしです。
まずわたしのMacに対応していません。
今や周りはIntelMacばかりなのに、わたしのマシンはPPCのPower Mac。
iPadのシステム条件の対象外ですが、今のところマシンの買い替えの予定はありません。
(ソフトウェアなどの環境次第で、そのうち買い替えせざるを得ない場合が出てくると思いますが。)

それと肝心の電子書籍の購読は日本では未定で、確かなアナウンスがありません。
これは現時点では致命的ではないでしょうか。
マルチタッチディスプレイはノートブックにはない操作性ですが、それ以外ではiPadに際立ったアドバンテージがありません。
よって、(日本に限れば)iPhoneの時と同じように話題性はあっても、当初はさほど売れないでしょう。
電子書籍のインフラが、ブレイクスルーの鍵ではないかと思います。



新しいデバイスのニュースは、それが新鮮な衣をまとっていれば、興味が沸きます。
夢のような、魔法のプレートと謳われれば、尚更。
買う買わないは、別にしてもです。
今回のiPad、確実に来るであろう電子書籍の時代という意味では、社会的な意味を持っています。
その分野では、AmazonのKindle(電子書籍リーダー)が実績を積んでいますが、iPadが目指すのは音楽(iTunes)と同じパターンのようです。
音楽ほどの成功が見込めないにしても、試みは同じです。

WebでiPadの画像を見ていると、本よりも新聞、雑誌の購読により向いているような気がします。
実際、新聞社が開発に協力しているようで、デジタルの購読も無料から有料化の方向性に切り替えるようです。
そうなると新聞販売所や新聞配達人はどうなるのでしょうか。
印刷所や製本業者など、従来の書籍に係わった人々の仕事はどうなるのでしょうか。
いわゆる中抜き現象が至るところで起きるわけで、夢のような利便性にも、必ず裏側や陰の部分は存在します。



他方、年々減少の一途を辿る書店のことも気になります。
Amazonの登場で都市部と地方の格差はなくなりました。
しかしその代償として、イナカの小さな書店はAmazonと競業することになりました。
インターネットは、そういう公平さと無謀さも生んできました。
電子書籍の直販が主流に向かえば、Amazon以上の影響が想像されます。

電子書籍が普及した時、DRM(デジタル著作権管理)はどうなるのでしょうか。
紙の本のように、普通に貸し借りが出来るのでしょうか。
(音楽の場合は、著作権を再考させる機会にもなり、功罪は半ばでした。)
又、紙の本の保存は大変ですが、電子書籍も扱いが意外に厄介です。
場所は取らないものの、ハードとソフトの変遷によっては、読み込みが出来ないものも出てきます。
バックアップのメディアも、時代と共に変わっていくので、その都度検討しなければなりません。



買う予定もないデバイスについて、(評論家でもないのに)とやかく書いてきました。
正直に書けば、買わなくてもそれに触ってみたい誘惑はあります。
新しいオモチャとして。
それと同等に、そういったデバイスの誕生の影響や、物流の変化にも多大な興味があります。

かなり前に、iGalleryの研究シリーズでETCのことについて書いたことがあります。
ETCによって、料金所で人と触れ合う機会がなくなることについてです。
ただ料金の受け渡しだけの接触ですが、そういった記憶にも残らないような接触が、人と人の関係のベースにあるように思ったからです。
インターネットも便利な分、そういった接触の機会を減らしていきます。
その小さな小さな機会の減少の積み重ねが、人間を変えていくように思います。
社会や人間の変化とは、案外、大きな事柄よりも、目に見えないものから変わっていくのです。

そういえば、10年前に比べて、喫煙できる場所がこれほど減るとは思いませんでした。