東京の埋め立て地の名所といえばお台場です。
レインボーブリッジから見る夜景は、つとに有名ですね。
そのお台場の近くにあるのが、豊洲です。
かつては工業地帯でしたが、有楽町線の開通とともに商業地、住宅地に変貌を遂げています。
その日、画廊の展示撮影でしたが、撮影時間までは大分ありました。
さてどうしようか。
久し振りに映画でも見ようかと思い、妻を誘いました。
二人で行くと、夫婦50割引(どちらかが50才以上だと、一人1000円に割引)になるからです。
それだったら豊洲のシネコンが良いよ、と妻の答え。
有楽町線の銀座一丁目から地下鉄に乗ると、三つ目の駅が豊洲です。
乗車時間五六分、あっという間に豊洲駅に着きました。
駅の階段を上がって地上に出ると・・・・。
一瞬眩暈(めまい)を覚えました。
広大な灰色の空。
覆いかぶさるような高層建築。
それと、広い道路。
そこは広い交差点の近くで、向うには建築中の高層ビル、高層集合住宅が何棟かあります。
見渡す限り普通のビルや住宅はなく、どれもが高層で真新しい。
余計なものが一切なくて、あるのは高層建築と空と地面のコンクリート。
わたしの頭の中に浮かんだのは、二十年前ほどに行った幕張の街。
豊洲と同じ埋め立て地で、その時は幕張メッセに美術展を見に行きました。
でも、これほどの違和感はありませんでした。
それは多分、豊洲とは高層の度合いが違い、建物のほとんどがオフィスビルで、幕張は生活環境ではなかったからです。
わたしの頭の中は、さらに深い記憶に遡(さかのぼ)りました。
ブラジルの首都ブラジリアです。
高原地帯に建設された計画都市です。
もちろん、ブラジリアには行ったことはありませんが、社会科の教科書の写真が目に焼き付いています。
ブラジリアは都市全体が斬新な意匠で、未来都市そのものでした。
しかし、都市としての発展は予想通りには行かず、その後に同じような計画は立てられませんでした。
広い交差点を曲がると直ぐに、映画館のある「ららぽーと豊洲」が目に入ってきました。
「ららぽーと豊洲」はショッピングセンターで、190のショップとレストランが入店しています。
入ってみると、どれもが新しくてオシャレで、とてもクリーン(清潔)です。
ショッピングセンターの内部です。
全天候型の、モールという形式のショッピングセンターですね。
管理が行き届いていて、ゴミなど皆無です。
客層も中流以上の感じで、地方のショッピングセンターとは雰囲気が異なります。
豊洲はお台場とは違って住空間の多い街です。
その所為もあって、モールにはインテリア関係のショップが多く入店しています。
そこに住んでいる人達の需要を満たしているわけです。
しかし、豊洲には観光地としての側面もあり、土日となれば、他所からの客も多いと想像されます。
そうであれば、モールの雰囲気も、土日と平日は多少違うかもしれません。
モールの展望窓から眺めた風景です。
遠くに霞んで見えるのが、レインボーブリッジ。
湾岸の観光地としての豊洲が伺い知れる、風景です。
肝心の映画。
シネコンは12スクリーンで、上映時間を見ると、『近距離恋愛』が都合良さそうです。
映画の詳細を知りませんが、1000円だったらハズれても許せます。
シネコンの設備や売店は最新かつ快適で、何も言うことはありません。
映画は予想通りのラブコメディで、時間つぶしには最適でした。
しっかりお金をかけたラブコメを堪能して、わたしたちは豊洲の駅に向かいました。
しかし、あの眩暈の余韻は残っていて、心は最後まで落ち着きません。
なぜでしょうか。
それは、豊洲が多くの計算の集積で作られた街だからです。
空間や心の余裕までも計算で作られていて、人が自然に欲して、自然に出来てしまう何かが欠けているからです。
豊洲はまだ若い街ですから、今後それが生まれる可能性はあります。
それが生まれた時、街は街としての潤いが滲み出てくるでしょう。
僭越ながら、そう思いました。