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探偵物語(34)


スランプ。
わたしは今、スランプに陥っています。
仕事もプライベートな探索も。

仕事がスランプなのは年がら年中で、取り立てて話題になりません。
スランプでない方が稀で、そっちの方が話題になります。
ま、そういう探偵業です。

困ったのはプライベートな探索。
仕事を切り上げた後に、密かにおこなっているわたし自身の探し物です。
そう、風景の中にわたしの探し物を見つけることです。



これが、上手くいかない。
歩きながら風景を見ていても、少しも心が動かない。
ど真ん中のストライクを見逃して、すごすごとベンチに下るバッターの心境です。

探偵(私立探偵)を英訳すると、
private detectiveになります。
口語的にはprivate eyeもあって、何となくこちらの方がシックリくる感じです。
個人的な視点。
つまり、風景を個人的な視点で見る。
わたしの放課後の探索にピッタリな形容です。

大体が、風景の中に探し物をするなどという行為は、相当に屈折しています。
マトモではありません。
マトモな人間だったら、風景は楽しむものです。
美しい風景を撮ったり、風景の中に自分を置いて記念撮影するものです。



マトモでないから、他人の秘密を嗅ぎ回ったりする仕事に就くのか、それとも、そういった仕事しか出来ないから、仕方なくやっているのか。
自分でも、良く分かりません。
今となったら、どっちでも構いませんが。

ともあれ、スランプです。
ほっつき歩いていても収穫がないので、適当に切り上げて、ダイナマイトシティの自室に戻ってきます。
とりあえず切り取った光景をパソコンにコピーして、眺める。
やっぱりスカで、探し物なんてありません。

眺めに厭きて、座っていた椅子を半回転して、窓の方向に向ける。
無意識の行動です。
すると、そこに、何かが見えました。



何だか分からないが、探していたものが。
(あっ、写っている辛子色のセーターのことではありません。念の為。)
それは、光の加減かもしれません。
春の、夕方の、光の加減かもしれません。

その優しさに、わたしは打たれました。
静物の輪郭と色相を微妙に変えてしまう、春の光の加減に。