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 日常の風景


カメラを初めて買ったのは、八年前ほど。
コンパクトのデジタルカメラです。
それまでは写真を撮ったことがありません。
写真を見るのは好きでしたが、撮る方には興味がありませんでした。

購入の動機は、健康のためです。
どういうことかといえば、当時は心身とも萎えていて、手っ取り早い健康法である散歩をすることにしました。
しかし、ただ散歩するだけでは長続きしません。
カメラでも持参して散歩すれば続くだろう、と思って買ったのでした。

マニュアルを一通り読んで、さっそく出かけた夕方の散歩。
所々でレンズを風景に向けますが、何を撮っていいのか分かりません。
大きな誤算でした。
それでもシャッターを押して、一時間ほどの散歩は終わりました。
続くはずの散歩はその日で終わって、カメラは散発的に使用するだけになりました。



甲府市の川田町の風景です。
旧甲州街道(20号線)沿いの歩道と看板です。
看板は、たしかクリーニング店のものだったと思います。
看板と後景の光と陰に目を留めた、画像です。


話の続きです。
一日限りの散歩の後、半年ほどしてWebサイトを立ち上げました。
今ご覧になっているiGalleryです。
これを始めてから、カメラの出番が一気に増えました。
テキストだけではとても持たないので、セッセと撮影してアップロードしました。
といっても、いつもカメラを持参していたわけではなく、気が向いた休日だけでした。



甲府市の向町(むこうまち)の風景です。
旧甲州街道と平行する、新しい道沿いの建物と駐車場。
向こうの中層建物は県営住宅で、手前は会社だったと記憶しています。
入口のドアと庇(ひさし)、赤茶の通路あたりを意識して、撮影しました。


カメラを手にすることと撮影枚数は増えましたが、何を撮った良いか。
撮影目的がハッキリしているWeb用は別にして、この疑問は依然としてありました。
アマチュア写真家が専ら被写体とする、四季折々の風景には興味がありません。
漠然とでしたが、日常の風景を撮りたいと思っていました。
しかし、日常の何を撮ったら良いのか分からない。
とりあえずは、枚数を撮ることにしました。
そのうち何かが見えてくるだろう、と期待して。



甲府市の城東の裏通りの風景です。
木の橋ですが、昔風の橋でなく、鉄道の枕木のようなものがボルトで止めてありました。
橋と道で、全体の構図を取ったと思います。


わたしは短い期間とはいえ、絵を描いていました。
いたずら書きが高じて、版画の専門学校に行きました。
風景を描くことと、風景を切り取る作業は同じです。
写真的文法に疎いわたしは、無意識に絵の手法でフレーミングしていたような気がします。
つまり、写真を撮るのではなく、絵を描くようにして風景を撮っていたと思います。
それに気付いてからは、スケッチのような気分でシャッターを押しています。




甲府駅の北口にあるワイン醸造所、もしくはその隣りの家の塀です。
晴天の秋空と塀の色のコントラストが鮮やかだったので。
撮影時にどの程度意識していたのか不明ですが、電柱、電線、標識などを入れるのが好きです。


ある程度枚数を撮ったころ、自分の写したいものが朧げに見えてきました。
ごく普通の日常風景で、特にドラマがない風景です。
前にも書いたことがありますが、「絵にならない風景」です。
それを撮ってどうなるかといえば、どうにもならないかもしれません。
でも、そういう風景が撮りたいのです。
もしかしたら、そこに自分の風景を発見するかもしれないと思って。

今回の掲載画像は散歩しながら撮りました。
ええ、最近は当初の目的をやっと果たし、時々散歩しながら撮影しています。
随分と、時間がかかってしまいましたが。
さしたる目的もなくするのが散歩で、わたしの撮影もそんなものです。
ゆっくり歩きながら、日常の風景を楽しもうと思っています。