歌謡曲の歌手で外してならないのは、歌う映画スターです。
石原裕次郎、小林旭、勝新太郎、吉永小百合、そして今回取り上げる加山雄三。
映画界で押しも押されぬスターは、歌謡界でもスターでした。
わたしの中高校生時代、加山雄三の若大将シリーズは全盛でした。
加山の歌う主題歌もヒットして、ブームと言って良いほどの人気でした。
しかしわたしは、主人公の屈託のない育ちの良さと輝くような笑顔が苦手で、一作も見ていませんでした。
同じ加山の『椿三十郎』や『赤ひげ』は嫌いではなかったので、あの若大将というキャラクターがダメだったのです。
時が過ぎて20年ほど前、昔の邦画が見たくなってレンタルで若大将シリーズを借りました。
別に若大将シリーズでなくても良かったのですが、当時は古い邦画のタイトル数が少なかったのです。
今調べてみると、借りたのは第13弾『フレッシュマン若大将』で、若大将が社会人になって最初の映画でした。
若大将が自動車会社の新入社員になり、社会人第一歩を踏み出すストーリです。
しかしこれが思いの外で、若大将の影というか、苦悩する面もしっかりと描かれていたのです。
見終った後、わたしの若大将、加山雄三のイメージが大きく変わりました。
若大将シリーズが延々と作られた秘密は、あのノーテンキと思えるほどの明るさオンリーではなく、明暗を巧みに織り込んだキャラクターにあったようです。
そして又時は過ぎて、2017年。
ヒップホップのアーティストが加山雄三の楽曲をリミックスした『加山雄三の新世界』がリリースされました。
楽曲は代表曲がズラリで、「お嫁においで」、「夜空の星」、「旅人よ」、「君といつまでも」などなど。
参加アーティストもPUNPEE、RHYMESTER、スチャダラパー、ECD×DJ Mitsu The Beatsなどのラップ界のビッグネイムで、サプライズとして、ももいろクローバーZもフィーチャーされています。
普段わたしはラップをあまり聴きません。
ラップといえば1986年のRun-D.M.Cの「Walk This Way」に尽きています。
この曲、モチーフとなったAerosmithの同名曲よりも断然カッコ良い。
ロックのサンプリングとラップの絡みが絶妙で、ヒップホップ時代の幕開けを告げる曲でした。
それ以降、個人的にこれを超える曲はなかったのですが、『加山雄三の新世界』は久々にラップのカッコ良さを再認識しました。
原曲の良さをヒップホップの手法で再構築して、それこそ現代的でニューワールドな加山雄三が生れたのです。
加山雄三のヒット曲の多くは岩谷時子の作詞です。
その作品世界は銀幕のスターに相応しく、おおらかでロマンチックです。
対するヒッポホップ勢のリリック(詩)は等身大で身も蓋もないほど現実的。
その落差も面白く、昭和と平成がモザイクのようにRemixされています。
エレキもラテンもてんこ盛りで、時空を超えたゴーゴー大会の様相。
銀幕からスターが消えて、歌謡曲もフェイドアウトしました。
どこまでも青い空と星の瞬く夜空はなくなって、どんよりとした曇天が続いています。
しかしそれでも、時代の遺伝子は伝わったのです。
ヒップホップで蘇った歌謡曲が、昭和と平成の架け橋になったのです。
お暇な折に、イケてる加山雄三を楽しんで下さい。
<第七十八回終り>https://www.youtube.com/watch?v=oQhNns7hSx4
https://www.youtube.com/watch?v=8h4P9vxGMMg
https://www.youtube.com/watch?v=gLS_4iPoZ40