iの研究

第七十七回 <歌謡>の研究
「日本のこころのうた」 昭和の歌謡⑤


古(いにしえ)から続く日本の歌謡の歴史の中でも、昭和の歌謡曲は特筆すべき水準の高さでした。
狭義の歌謡曲は1990年代以降衰退し、演歌というジャンルに押し込められてしまいました。
その演歌を特段「日本のこころのうた」とする言説がありますが、これには違和感があります。
歌謡曲はいろいろな国の楽曲が混じり合う、雑種性に特色があります。
演歌も例外ではなく、例えば森進一の歌唱にはルイ・アームストロングの影響が見られます。
この言説は日本民族単一説にどこか似ていて肯けません。


それで、一つの異説です。
ベッツィ&クリスの「白い色は恋人の色」(1969年)。
ベッツィ&クリスはアメリカの白人女性デュオです。
作詞は北山修、作曲は加藤和彦。
二人はフォーク・クルセダーズのメンバーで、その後加藤和彦はロックに転じ、幅広い音楽世界を展開しました。

歌手とソングライターだけ見れば、「日本のこころのうた」とはほど遠いかもしれません。
しかしです、この透明感あふれる清涼な歌唱はフォークの枠組みを超えて幅広い層に聴かれました。
日本人の琴線に触れる何かがこの曲にはあったのです。
それは多分に加藤和彦のメロディメイカーとしての才であり、色彩と情感豊かな詞、白人女性デュオの清潔な日本語の歌唱だったと思います。

ベッツィ&クリスは「白い色は恋人の色」以外にヒット曲はありません。
いわゆる、一発屋でした。
一発屋のヒット曲は楽曲と歌手の巡り合わせ、時代の空気など、偶然的な要素に恵まれたものがほとんどです。
その偶然が奇跡的なまでに合致すると、歌は時を越えて人のこころに残ります。
「白い色は恋人の色」、50年近くの月日を経ても色褪せていません。
いささか強引かもしれませんが、演歌だけが「日本のこころのうた」ではありません。
雑種性が逆に「日本のこころのうた」を生むこともあるのです。
「白い色は恋人の色」のように。

<第七十七回終り>

https://www.youtube.com/watch?v=CkaFC1AF2QU