斎藤英子展の展示風景です。
以上、展示室の展示は多数のパーツで構成されたインスタレーションです。
その他小展示室にも多数のパーツが展示されています。
パーツ(独立した作品でもあります)は針金(金網)、水糸、マーキングテープが使われています。
サイズは多種ですが、比較的小ぶりなものが大多数です。
ランダムに選んだ作品画像をご覧下さい.
〈作家コメント〉
① 私の住む街には21世紀になるまで「武蔵野の原風景」が、多く残っていました。
都市計画による新しい道路建設が、多摩ニュータウンの構想と共に決まっていた為かもしれません・・・
工事が近づくにつれ、畑や植木の薮、欅の大木などが 広範囲に消えていきます。.
心のよりどころを失う不安が、ひしひしと頭をもたげていきました。
この頃より「日常の見慣れた光景が、其の人をつくる=風土が人を育てる。」と、考えるに至り
「心の原風景を 探す旅 」 する様になりました。
2011 年3 月11 日以降「過去から何を貰い 未来に何を遺していくか」が、一番の関心事になり
2014 年より、 蓄積される不穏や不安を警戒する象徴として蛍光ピンクの水糸を使用しています。「底知れぬ井戸に落ちていく。」そんな感覚が、この数年、続いています。
水底が、見えない・・・不安・・・。
それは、あくまでも個人的なものの蓄積でしかありません。
しかし、それが、今年になり社会的なものに変化していました。
今回も蓄積される不安や不穏を「蛍光ピンクの色」に託し、以前より使用している水糸と、
東北を旅した際よく目にした蛍光ピンクのマーキングテープを新たに加え、2018年に使用した金網を
支持体に制作します。
(2018年の金網は、石巻のリアス・アーク美術館で観た震災を記録する展示で考えた事柄を象徴しています。)斎藤さんのインスタレーションを構成する作品は金網、マーキングテープ、水糸などが使用されています。
それらは一般的な画材ではありませんが、現代美術の分野では珍しい素材ではありません。
キャンバスや油絵具、水彩絵具なども依然多く使われていますが、ホームセンターで販売されている資材も多くの作家が使用しています。
常日頃ホームセンターを覗いて素材選びに目を光らせている作家の姿もごく普通に見られます。
なぜこのような変化が起きたかを考察するのは興味深いのですが、それはまたの機会に譲ります。
斎藤さんが採用した水糸は建築現場などで水平を示すために使われています。
基準線として視認性が高いピンクが色として選ばれています。
マーキングテープは登山道などで正しいルートを示すために樹木に結ばれているのを目にしたことがあります。
いずれも注意喚起として役割があります。
斎藤さんのコメントを読むと、個人的な意識と社会的な意識が交わっていて、そこが面白いと感じました。
心境と社会の変化が交錯して、人のある部分を形造る。
そんな問題意識に思えます。
以上の予備知識を持ってインスタレーションを眺めると、これは画廊空間を一枚の紙にたとえたドローイングに見えます。
ピンクの直線、曲線が空間に浮き出ていて、グレーの金網がそれに陰影をつける。
ピンクは警告(アラート)を意味していますが、同時に斎藤さんの自由で柔軟な筆致です。
その伸びやかな軌跡が壁や空中で浮遊しています。
高価な画材とはほど遠い素材が、ここでは何モノにも代え難い表現手段として輝いています。
藍画廊のホワイトキューブを巧みに用いた、美しいドローイング(インスレーション)の一品です。
ご高覧よろしくお願いします。
会期
2020年7月6日(月)ー11日(土)
11:30amー7:00pm(最終日6:00pm)
会場案内