藍 画 廊



松嶋励路展
ーCOLORー
MATSUSHIMA Reiji


松嶋励路展の展示風景です。



各壁面ごとの展示をご覧下さい。



画廊入口から見て、左側の壁面です。
左の2点、タイトル左から「Color 09-a」、「Color 09-b」でサイズは共に60(H)×60(W)×4.8(D)cm、油彩、卵テンペラ/石膏地、合板に膠で貼った麻布を使用しています。
右の2点、左から「Color12-a」、「Color12-b」でサイズは共に90×90×6cm、油彩/エマルション地、合板に膠で貼った綿布を使用しています。



正面の壁面です。
左から「Color12-c」、「Color12-d」でサイズは共に90×90×6cm、油彩/エマルション地、合板に膠で貼った綿布を使用しています。



右側の壁面です。
左の2点、左から「Color12-e」、「Color12-f」でサイズは共に90×90×6cm、油彩/エマルション地、合板に膠で貼った綿布を使用しています。
右の2点、左から「Color09-10-a」、「Color09-10-b」でサイズは共に60×60×4.8cm、油彩、卵テンペラ/有色エマルション地、合板に膠で貼った綿布を使用しています。



入口横の壁面です。
タイトル左から「Color05-a」、「Color05-b」、「Color05-c」でサイズはすべて45×55.6×4cm、油彩、アクリルジェッソ地、合板を使用し、各作品共2枚組になっています。

以上の13点で松嶋励路展は構成されています。



左壁面の「Color 09-a」、「Color 09-b」です。



展示作品はすべてご覧のように相当な厚みを持っており、側面までペイントされています。



左壁面の「Color12-a」です。



左壁面の「Color12-b」です。



正面壁面の「Color12-c」です。



正面壁面の「Color12-d」です。



右壁面の「Color12-e」です。



右壁面の「Color12-f」です。



右壁面の「Color09-10-a」、「Color09-10-b」です。



入口横壁面の「Color05-a」、「Color05-b」です。
入口横壁面の3点は2枚組(2点の作品がジョイントされている)になっています。


会場には松嶋さんの制作の意図と方法を記したテキストが置かれています。
長文ですが以下に転載いたします。


“COLOR”制作の意図と方法
松嶋励路

 題名に示したように、私の絵画の主題は色彩であるが、人目を引くような派手な色を用いているわけではない。また、色彩の持つ心理的効果または象徴的意味合いといったものを意図しているのでもない。抑制された灰色に近い色彩、極端を避けた中立的な表現が求められている。
 絵具で灰色を作る場合、白と黒の無彩色によるものと補色を利用した有彩色によるものとがあり、私の方法は後者である。連作“COLOR”は、三原色および第二次色の補色対、すなわち赤‐緑、黄‐紫、青‐橙を、混色ではなく乾燥を待ちながら薄層に塗り重ねていくことで成立している。補色関係はお互いの色相を打ち消し合い、薄層の重ね塗りは物理的にではなく視覚的に混合されて灰色の効果を生む。塗り重ねる色の順序を替えて複数のパターンを作ると、色相の微妙に異なる有彩色の灰色が生まれるが、この微妙な差異の中に、 私が注意を払うすべてがある。
 制作方法について簡単に記述する。支持体は厚さ4mm のシナベニヤ合板を使用。大きさは90×90cmの正方形を基本型とし、今後はこの長さを短辺とするルート矩形、黄金矩形等の比率の作品を順次、制作する予定である。支持体には6cmの厚みを持たせており、絵具 はこの側面にも施される。
合板に綿布か麻布を膠水で貼りつけた後、水性または半油性の地塗りを施す。その後、 計画にしたがって色を重ねてゆく。私はつねに6点の作品を並行して制作するが、その理由は主に、三原色と第二次色の補色の組合わせは上記の3通り、その順列は6通りであることによる。
 絵具は油絵具を使用し、できるだけ純色に近い彩度を持った透明色を選んでいる。各色層の間には白を塗り重ねる。白は明度を調整するため、また靄のかかったような奥行を表すために使用する。重ね塗りによってできる色相の差異のみを純粋に見きわめようとするため、他の条件、メディウムとの分量比等は均等になるよう、慎重に計量して配合する。
 使用する道具は筆、刷毛、ペインティングナイフの三種類である。私には直接的な筆触を画面に残したくないという性向がある。複数の種類の道具を用いるのは、それぞれの特性を表そうというよりはむしろ、筆跡をペインティングナイフで消し、ペインティングナ イフの跡を筆で消す、といった具合にそれぞれの痕跡を相互に消し合いたいという欲求に基づくもののようだ。といって完全に均一で塗りムラのない画面ではなく、かすかな息づかいの感じられる画面にしたい。表面は能う限り平滑にしたいので、層を塗り重ねるごとに絵具の乾燥を待って目の細かいペーパーで研摩する。
 塗り重ねる絵具層の数は地塗りを除いても20〜30層に及ぶ。油絵具は乾燥に時間がかかるので、作品を仕上げるのには半年から一年、長い場合にはそれ以上を要する。
 このように、私の制作はシステマティックな性格を持つが、言うまでもなく絵画の制作はつねに予期せぬ事態を招来する。補色を混合すれば、または塗り重ねれば、明度と彩度を下げた灰色に近づくというのは色彩原理的にはそうであるが、絵具という物質の持つ個々の特性、被覆力の相違などにより、計算通りに事が運ぶことは稀である。たとえば赤色の上に緑色を重ねていて暗い青色が出現するというような場合があり、驚いてしまう。 表面を平滑にするということ一つを取っても、それを完全な状態に持っていくことは、じつは容易ではない。これほど単純なことが、なぜこんなに難しいのか、と思う。
 絵具を塗り重ねているときはできるだけ規則的に、機械的に手を動かそうとしている。 そうしながら地塗りの際にできた微細な凹凸や、絵具をナイフで塗り、削り取った際にできた下層の傷などをじっと見つめ、感応していることが多い。画面の凹凸や傷などを偶然にできた染み、アクシデントのようなものと見做せば、それはシステムにおけるノイズに相当するだろう。しかし案外こうした要素が、制作の時間を持続させ、作品を絵画として 成立させているようにも思うのである。
 私の絵画制作は、私の内部に在る観念に一つの形を与えたいという欲求に根差している。 観念は手を通して物質に働きかけ、したがわせようとするが、つねに予測を超えた部分があり、物質の思いがけない抵抗に出会って驚いたり失望したりする。同時に、物質の現れ、 変化が、はじめに抱いていた思考を改めさせるということがある。観念と物質とのこの相互作用は、制作の時間に持続して流れており、作品はそのような持続の痕跡であると言えるだろう。

2013/08 藍画廊個展



画廊に整然と展示された箱状の色面。
制作の方法に似て、システマティックに展示されています。
一見するとクールで冷ややかな印象を持ちますが、しばらく眺めていると、徐々に微妙な感情がそこに生まれます。
それを言葉にするのは非常に難しいのですが、絵画が絵画たる所以(ゆえん)がそこには含まれています。

そう、ここにあるのは紛れもない絵画です。
一般的に考えられる絵画から最も遠い場所(方法論)で描かれた色面の数々。
それにもかかわらず、最も絵画らしい何かが含まれた作品。

松嶋さんの方法論はシステマティックですが、それは多分にアナログなシステマティックです。
もし徹するならば、色面をエアブラシで均一に描く方法だってあったはずです。
しかしそれはしない。
工業製品を作っているわけではなく、あくまでも絵画を制作しているからです。
「手」というものを使って、絵画の用具で制作しています。

故に、松嶋さんの言葉で言うところのノイズが発生します。
ちょっとした凹凸や傷が、ニュアンスを生んでいきます。
色を消す過程で生まれる、予期せぬ色の発生。
そしてノイズ。
計算と計算外から派生する要素が相まって、松嶋さんの絵画は続いていきます。

画廊で作品と対峙していると、ある種の懐かしさを感じます。
かといって、作品が古くさいわけではありません。
どちらかといえば、最も先鋭的な方法論で描かれた作品です。
絵画が絵画として最も輝いていた時代、そんな時代の空気が作品にはあるのです。
これはとても不思議な体験です。

色彩。
それを消すことによって成立する、色の絵画。
その美しさを、実際に画廊で味わっていただきたく思います。

ご高覧よろしくお願い致します。



会期

2013年8月5日(月)ー8月17日(土)

日曜休廊

11:30amー7:00pm(最終日6:00pm)



会場案内