杉浦藍展
「ペンシルロケット」
SUGIURA Ai
杉浦藍展の展示風景です。
画廊入口から見て、正面と右側の壁面方向です。
左は、作品タイトル「春はいたずらもの(b)」で、作品サイズ170(H)×195(W)×50(D)cmです。
FRP・紙・スポンジ・木シートを使用しています。
右は、「ごきげんないとこ」で、117×77×66cmです。
スポンジ・カーペット・ネット・メディウムを使用しています。
左側の壁面方向です。
中央の作品は上でご紹介した「春はいたずらもの(b)」で、左が連作の「春はいたずらもの(a)」です。
作品サイズは55×190×100cmで、FRP・紙・スポンジ・木シートを使用しています。
杉浦藍展「ペンシルロケット」は以上の三点で構成されています。
「春はいたずらもの(a)」です。
台形のベースのようなものに、白いベルト(?)がニョキニョキと上に伸びています。
作品の成形はFRP(繊維強化プラスチック)で、それに紙、スポンジ、木シートが使われています。
(作品の設置方法は可変で、倒した形での展示もあります。)
「春はいたずらもの(b)」です。
制作過程について、杉浦さんに訊ねてみました。
まず、既製のイラストや画像の線に注目して、それを抽出します。
抽出した線を、今度は自由に組み合わせます。
その過程で、線を加えたり、削除したりします。
出来上がった線の平面を基に、立体を作り上げていきます。
この角度から見ると、サンプリングされた線を基に、立体が作られているのが分かります。
線を作っているのがFRPで、それに紙やスポンジが貼られ、一部は着色されています。
ベース部分の内側に貼られているのが木シートで、木目を薄くスライスしてシート状にしたものです。
材料は制作前から決められていているそうです。
一般的な画材、彫刻素材とは言い難い材料ですが、ある意味で、それらもサンプリングされたものといえます。
「ごきげんないとこ」です。
この作品は線でなく、形をサンプリングして、自由に変形して組み合わせた作品です。
何となく見覚えのある形ですが、特定はできない形ですね。
スポンジの柔らかさとポップな色合いと、それに不釣り合いな大きさが、奇妙な感覚を呼び起こします。
アングルを変えて撮影してみました。
イエローとグリーンの形の裏側はネット(メッシュ)ですが、お分かりになるでしょうか。
藍画廊で開催された杉浦藍さんの展示を、iGalleryで紹介する。
何となくアイづくめで、その所為かどうか、ラブリーな作品です。
しかし、このラブリーは一筋縄ではいきません。
杉浦さんの立体は、平面の線描から作られています。
その線描は、日常で見られるイラストやアニメーションから採られたものです。
それを杉浦さんが自由に加減していますが、オリジナルの線の面影は残っています。
何処がとは、指摘できないのですが、少なからず既知感を覚えます。
それは平面のフォルムを基にした作品でも同じです。
杉浦さんの作品は充分にオリジナルですが、近代的な意味でのオリジナリティとは異なります。
自然に対して毅然としている人間の精神が、近代のオリジナリティの中身です。
そのようなものと、杉浦さんの作品は縁が薄い。
杉浦さんにとって問題なのは、自然ではなくて、今生きている日常空間です。
そう、わたしたちが、今生きている日常の環境です。
わたしたちの日常は、リアルな物事とコピー(複製)された映像、画像で構成されています。
その境目は曖昧で、相互に侵食して、日常の空間を形作っています。
空間は徐々に捕らえ所のないものになり、質量も計ることが難しくなっていきます。
日常は、どんどんチープで薄っぺらなものになっていく。
テレビのバラエティのセットのように、ハデな色だけが目立つ安物のようになっていく。
そんな日常を、杉浦さんが愛しているのかどうかは別にして、邪険にはしていません。
そこから、自分のモノを見つけて、自分の表現を作っていく。
日常の小物を巨大化した、オルデンバーグのポップアートの作品があります。
杉浦さんの作品は、それとも違います。
日常空間と融合するような形で、しかも、微妙に距離を取っています。
その浮遊感とリズム(!)が、それで、杉浦さんの表現でありオリジナリティです。
ナカナカの(ラブリーな)使い手、と見ました。
ご高覧よろしくお願い致します。