入口横右壁面の「近いようで遠いとなりの家」です。
展示作品の中では、若干雰囲気の異る作品です。
家の背景の赤が印象的で、非現実で不条理な世界を想像させます。
キリコの絵画の世界に近いかもしれません。
長沢さんの作品コンセプトが作品パンフレットに記されています。
全文を引用してましょう。
私は、日々の中で感じた感情や、感覚の視覚化をテーマに制作しています。
生きていく中で、漠然と感じる不安や違和感、憂鬱などを愛しさを込めて描いています。
生きることは喜びに満ち溢れていると同時に、時に絶望的であります。
私は、その両面を表現したいと考えています。
なぜなら、すべての物事には明暗があり、その両面があるからこそお互いをより輝かせているのだと思うからです。
私の作品の登場人物たちは、どこか哀愁を帯びていますが、決して絶望したり諦めたりしているわけではありません。
なにか困難があっても、あるがままを受け止め、立ち向かうとともに、それさえも楽しんでしまおうとする意思が込められているからです。
長沢さんの絵画の仄明るさ(?)の秘密が、このテキストに示されています。
不安や違和感、憂鬱を、一概に否定するのではなく、それを受け止める態度です。
生きていく過程で生じる陰の部分に、ほんのりと光を射そうとする意思です。
長沢さんの絵画は親しみやすい。
イラストのような描法で、とても馴染みやすい。
しかしこれは諸刃の剣で、ヘタをすると説明過多で、想像力の働く余地がなくなってしまいます。
イラストレーションとは、元来がサービス業ですから、そのような危険が必ずあります。
そのような危険を冒してまで、なぜ長沢さんはこの描法を選んだか。
尋ねてみました。
美術の既定の表現形式と、自己の表現形式とのギャップに悩んだから。
これはわたしも経験があります。
美術とは難解で高尚でなければならない、という呪縛です。
この呪縛に囚われると、自分の表現がスポイルされてしまいます。
絵を描く、描きたいという表現の根底にある、喜びが押し潰されてしまいます。
それで、長沢さんは自己の表現欲求に忠実に描くことにしたそうです。
正解、だと思います。
長沢さんの絵画には、その鋭い感性に添った世界が描かれているからです。
ほんのりとした光には、自分だけの絵画の世界があるからです。
そこからしか、表現の道は開かれないと、わたしは思います。
ご高覧よろしくお願いいたします。
同時開催
“着信拒否” 旧作展
西湘画廊
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