田中正弘展の展示風景です。
画廊床面中央に三点の立体作品と、壁面にはアクリルボックスで額装された多数のオブジェ。
(上の画像には写っていませんが)小さな立体作品も展示されています。
作品数の多い個展ですが、各壁面ごとにご覧いただきます。
画廊入口から見て、正面と右側の壁面です。
中央の立体三点は、いずれも「雲水」というタイトルが付けられています。
鉄とブロンズの作品です。
壁面は「風土記シリーズ」で、ミックストメディアです。
十三点が展示されています。
入口横右の壁面です。
同じく「風土記シリーズ」で、五点の展示です。
左側の壁面です。
壁面は「風土記シリーズ」七点で、コーナーに小立体が八点展示されています。
「雲水」が六点と「立棺」が二点です。
以上が画廊内の展示で、その他道路側ウィンドウに一点の展示があります。
画廊中央に置かれた三点の「雲水」のうち、一番大きな作品(610×625×160cm)です。
雲水とは諸国を巡り歩く、行脚僧のことです。
深い笠を被った雲水の像が中央にあって、僧を囲むように円があります。
この作品を見た時、山間のトンネルを黙々と抜ける修行僧を想像しました。
田中さんに尋ねたところ、円には特にモチーフはなく、造形的に制作したそうです。
粗削りな円と曲線の美しい雲水の像。
対照的な造りですが、死生観が漂よう作品です。
壁面の「風土記シリーズ」をランダムに選択して、三点ご覧いただきます。
これは最もシンプルな作品で、歯車とベルト、バネなどで構成されています。
地(背景)にあたる部分の、パンチングとグレーの金属板のコンポジションも面白い作品です。
中央の木製の舟のような形をしたものは何でしょうか。
何かのパーツのようですが、他もすべて機械、時計などの部品を使用しています。
アクリルで覆われている所為もあって、封印されたタイムカプセルのような印象です。
この小宇宙のような作品群(風土記シリーズ)は、まず造形があって、それからテーマが生みだされたそうです。
ジャズの即興のように、音のフレーズを積み重ねていって、そこからテーマが誕生する作品です。
歯車とベルト、細かな時計の部品のようなもの。
繋がっているようで、バラバラでもある。
左上の時計の文字盤から伸びる七本のピン。
スプートニク(人工衛星)なのか、ほうき星なのか。
多数に打たれた鋲が、アクセントになっています。
田中さんはキャリアの長い立体作家です。
初期のモダンな作風から具象的な「立棺」シリーズまで、キャリアに応じた変遷があります。
一貫して造形に拘(こだわ)った制作ですが、そこから表出されるテーマにも連続性があります。
特に近年は、死生を強く感じさせる作品を生みだしています。
「雲水」と「風土記」のシリーズ。
一見すると対照的ですが、両者を見ることによって、田中さんの世界の広さ、大きさが分かります。
ストイックな僧の像と遊び心に溢れたオブジェ。
その二つは、わたしの頭の中で宇宙という言葉で結びつきます。
宇宙とは、恐らく常ならぬものです。
一時も止まることがなく、その流れは、時には容赦のないものです。
雲水の苦悩の一つは、人にはどうすることもできない、その流れです。
しかしわたし達が見ている流れは、大きな潮流の一つに過ぎず、その先には眩暈がするような世界が拡がっています。
人はちっぽけな世界に生きていますが、ちっぽけだからといって、宇宙の端にいるわけではありません。
宇宙の真ん中にいるのです。
何かと何かが繋がって、あるいは何かと何かがぶつかって、その作用は流れを形成しています。
風土とは、その流れの蓄積で、小さな宇宙です。
画廊に並べられた多くの作品は、決して冗舌ではありません。
必要なことを、必要なだけ、語っています。
そこには気取りもなくて、誠実な形があるだけです。
ご高覧よろしくお願いいたします。