村井美穂 作品展は、画廊をカーテンで仕切って、二つの展示空間で構成されています。
道路側の入口から展示をご覧いただきます。
入口左の壁面の作品です。
右は仕切りのカーテンです。
村井さんは作品を「キマジメ装置」と名付けています。
上の作品は、その4号機です。
動く作品で、木材(ブナ)とモーターを使用しています。
動きの説明は、画廊で配付されている村井さん作成のパンフから転載させていただきます。
(他の作品の説明も、グレーの文字色はパンフからの転載です。)
球が循環運動する装置1
モーターの回転運動をカムが上下運動に変換し、てこがその上下運動を増幅します。
上下運動は球の通り道に伝わり球が斜面にそって動きます。
上の道を通った球は下の道に入り、最後は上昇機構にのって上の道に戻ります。
球が上の道の右端から二番目の板に移ろうとしています。
二番目の板がこれから下って、球は転がっていきます。
先に進むと、4号機の対面の壁に作品が展示されています。
(左のカーテンの端が別室への入口です。)
これは、6号機です。
使用しているのはアクリルです。
球が不思議な軌跡をたどる装置1
アクリル板2枚の間を球が回転しながらゆっくり落下運動をします。
球の直径と板の隙間の長さが等しい場所を常に通るため、レール等の道がなくても同じ場所を通ります。
アクリル板の板と板の隙間の幅を変えると、球の動きの軌跡が変化します。
上の画像では分かり難いと思いますが、ガラスの球を左上から落すと、球は回転しながら斜めに進み、右下まで行きます。
球の回転する様が美しく、最後に球は右にある容器に自動的に収容されます。
それでは、カーテンを開けて別室に入ってみましょう。
照明が落された部屋の中央に作品が一点展示されています。
本展のメインの作品で、7号機です。
アクリルと木材とモーターを使用しています。
球が不思議な軌道をたどる装置2
アクリル板を曲げることによって、球が落下・上昇運動をします。
落下した球は上昇機構によって再び動き出し、自動的に装置内を循環します。
ブラックライトで光る素材の球を使用しています。
落下途中の緑、橙、黄の球が見えますね。
この球が装置の右上から左に向かって斜めに落ち、左端まで行くと、今度は右に向かって斜めに落ちます。
落ちる過程には昇りの部分もあって、球が不思議な動きで昇降しながら落ちていきます。
右下で落ちきると、球は回収されて右上のスタート地点まで(モーターの動力で)上昇します。
ブラックライトで光り輝く球が、アニメーションのようなスローな動きで軌跡を描く作品です。
ローテクでありながら、ハイテクのような作品です。
最後は道路側ウィンドウに展示された作品です。 5号機で、木材とモーターを使用しています。 原理は4号機と同じで、球が右から左へ、左から右へと循環運動をします。 |
「キマジメ装置」の定義を、村井さんはパンフで以下のように記しています。
まったく何の役に立たない動きを、健気にも続けるこれらの装置を称して「キマジメ装置」と名付けました。
「キマジメ装置」という名称も、各作品に付けられた〜号機というタイトルも愉快でカワイイですね。
ハンドメイドの木製の作品には、温かみと精巧さがほど良く同居しています。
上質なオモチャが持っている、想像力の豊かさと精神の自由さを感じさせる作品です。
村井さんの作品の各パーツは、単純な構造で出来ています。
その組合せが不思議な動き(運動)を生んでいます。
それが視覚的に把握できたり、体験できるのが特徴です。
万物の運動の根本を分かりやすく、楽しく表現しています。
近代以前の時代、宗教が万物の理(ことわり)を説明していました。
近代になると、宗教に換わって科学と芸術がその役割を担うようになりました。
出自を考えると、科学と芸術は双子の兄弟姉妹のような関係といえます。
芸術とは「キマジメ装置」と同じように、現実社会(産業社会)では役に立たないものです。
科学も、真理の追及が目的ですから、本来は役に立たないものです。
(それが応用技術として利用され、今日の文明社会を招いたのは説明の要がないでしょう。)
「キマジメ装置」の役に立たない動きは、楽しい。
球が行ったり来たりするだけの動きが、楽しい。
なぜ楽しいのでしょうか。
それは、科学や芸術が当初持っていた楽しさを体現しているからです。
不思議や神秘に分け入ったときの、素朴な驚きや発見があるからだと思います。
ご高覧よろしくお願いいたします。
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